いつかまた、君と一緒に颯爽と歩こう
2022年12月31日。
大掃除の最中、私は赤い通勤鞄をクローゼットにしまった。
7月に教員の仕事を辞めてからもずっと居間にあった鞄だった。
教員を辞めたことに未練はない。これは本心だ。
現に、前職の同僚と会って話をしても全く心が動かなかったのだから。
ただ、赤い通勤鞄を持って外出できなくなったこと。それには未練があったのかもしれない。
この赤い通勤鞄は、当時彼氏だった夫が誕生日プレゼント兼、教員になったことへのお祝いで買ってくれたものだった。
二子玉川の高島屋とライズを行き来して、あーでもないこーでもないと店舗を巡ってやっと出会えた1品。しかもラス1。
大きさ、形、色すべて私の理想をそろえた鞄だったのだ。
買ってもらったあと、あきるほど眺めていたり持ったりしていて、夫にあきれられたのを覚えている。
1年と3ヶ月、教員という新しいチャレンジをずっと間近で見てくれて、苦楽をともにしてきた。
この鞄は私にとって、大切な人からのプレゼントという意味合いだけでなく、教員になるという夢が叶った象徴でもあったのだ。
今は肩こりがつらかったのと両手を開けたくてリュックサックを使っている。でも本当は、仕事をしていない私がこの鞄を使うことに対しての罪悪感があった。
それでもクローゼットにしまうことができなかった。単に私がものぐさだったということも関係しているが、この鞄をしまってしまったら私はもう社会に戻れなくなるのではないかと本能的な恐怖があったのかもしれない。
そんな私が鞄をしまえた理由。それは一重に、今が充実しているからだと思う。そして、不安ばかりだった将来に希望を見いだし、楽しみになったこと。
だから私はこんな決意をして鞄をしまった。
いつか必ず、この赤い通勤鞄と一緒に歩こう。そのときは赤が映えるようなかっこいいスーツを着て。ちょっと高いヒールのパンプスも履いて。
そして颯爽と通りを歩くんだ。
また会う日を楽しみに。それまでに君に似合ういい女になってるね。