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子どもを産むことを想像できなかった、10年前の私へ【mameZINE掲載エッセイ】

もし、10年前の私と会えるならば、絶対にこう聞かれるだろう。

“子どもを産んで幸せ?”

制限された自由から解き放たれるのを、今か今かと待っていた学生時代。社会にでることへの不安と期待でいっぱいで、子どもを産むなんて想像もしていなかった。

そんな10年前の私に、今の私は「幸せ」と胸を張っていえるだろうか?

子どもを育てるというのは、想像以上に大変。こんな陳腐な言葉でしか言い表せないくらいに。

え、なにが「大変」なんだって?

まず、自由に使える時間はないでしょ。
子どもに合わせた生活リズムだから、自分自身で時間をコントロールできないの。
これね、結構ストレスよ。睡眠時間すら子どもに合わせなきゃならないの。

やっと寝たと思ったら変な時間に起きるしね。24時間ずっと会社で働いている感覚になるの。信じられる?

あとは、本を見て一生懸命作った離乳食を食べないこと。あまつさえ投げ捨てられるの。想像してみて。イラっとくるでしょ?

あなたの大好きな、小洒落たレストランや居酒屋にも行けていないわ。
ファミレスばっか。ゆっくり食べることもできないし。

もう毎日が戦争よ。1日が秒で過ぎてるわ。

しかも、ママになってから「わたし」がいなくなっちゃった感覚があるの。

外食で、自分の好きなものより、子どもとわけられるものを選ぶとき。
どんな音楽が好き?と聞かれて、子どもと一緒に聞いている歌しか思いつかなかったとき。
急にできた1人の時間で、やりたいことが思いつかなかったとき。

あー私、ママになる前の「わたし」には戻れないんだって思ったよ。

”じゃあ幸せじゃないの?”


ううん。

確かに、辛くて大変なときもある。
それでもやれてるのは、私の日常に小さな幸せがあふれていることに気がついたからなの。

例えばこんなとき。

季節の移り変わりに敏感になったとき。暑さや寒さ、季節の花々、虫や鳥。
今まで気にも留めなかったものに意識が向くようになった。

絵本や童謡の奥深さを知ったとき。サラッと見てたけど、よくよく見ると学びがたくさんある。

遊びに夢中になっている子どもが、ふと私の顔を見てにっこり笑ってくれたとき。

「この子がいとおしい」

パートナーにも親にも感じたことのない、初めての感情が自分のなかに湧き上がってくるの。

とにかく、子どもを生んでいなかったら体験できないことが多いの。自分の子ども時代をなぞっているよう。子どもを育てているようで、自分が育てられているんだ。

ねえ、10年前の私。

今の私を見たら、「子どもは生まない!」って言うかしら?
髪を振り乱して育児してるから。キラキラとは無縁よね。

子どもを産まない選択をしたとしても楽しかったし、幸せだったと思う。

でもね、毎日バタバタしているなかに、かけがえのない宝物のような瞬間が、確かにある。
ほんっっとに小さくて、一瞬だから取りこぼしちゃうことも多いけれど。

ピカッとした輝きに気がついて、拾って、掲げて「あぁ、幸せだ」と思うわたしが、私は好きだよ。


このエッセイは、mameZINE創刊号に掲載されているものを公式の許可を得て転載したものです。
mameZINE創刊号では、デザイン付でエッセイが掲載されています。そのほか、お誕生日特集などのコンテンツが満載です。
ぜひ読んでみていただけるとうれしいです!


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