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アクリル絵の具で汚れた水をどうしよう?
アクリル絵の具はとても便利。ここ数年、透明水彩絵の具をメインに絵を描いているものの、昔はアクリル絵の具もよく使っていました。こんもりと絵の具をのせていくのが楽しかった。
エシカルに創作活動をしていきたい。と考えるようになって、絵の具の成分についてコツコツと調べていると、ふと「アクリル絵の具ってプラスチックの一種では...?」と思うようになりまして。
わたしが気になっているのは、アクリル絵の具を溶いて汚れた水。絵の具の中身について調べることで、この水の処理について考える必要がある、知る必要があると思ったのです。普段アクリルを使わないくせに、一度考えたらもう気になって仕方がない!さて、それなら調べてみようじゃないか。
自由研究 #エシカルにクリエイティブ では、自分なりに疑問に思った過程や調べてみて現時点でわかったことをシェアします。わたしが得ていた情報が古かったり、誤認がある場合はコメントをいただけるととても有難いです。 筆者より
→ 研究のためのポリシー
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アクリル絵の具って、そもそも何?
アクリル絵の具というのは、絵の具の種類のひとつ。水溶性なので、絵を描くときに絵の具を伸ばすのは水です。そのため油絵の具より取り扱いが簡単で、乾く時間が圧倒的に早く、制作効率はとてもいい。
1番のメリットは、一旦乾いたら耐水性になること。日光や雨風にさらされるような耐久性が必要な場面はアクリル絵の具がぴったりだ。しかも、下地のカバー力が高い。つまり、描き間違えたところがあっても、アクリル絵の具で上から色を重ねれば隠すこともできる。(←透明水彩ではできない技だ!うっかりミスすら隠せるのはクリエイター的には心強いw)
さて、アクリル絵の具は何でできているのか?というと、
水性アクリル絵具は、顔料にアクリル樹脂エマルションで練り上げた絵具 である。
引用元:wikipedia
「顔料」というのは、色の素になる粉のこと。これはどの絵の具にも必要なものです。この色の粉を定着させるための「のり」がアクリル絵の具の場合は「アクリル樹脂エマルション」と呼ばれるものになる。
※ちなみに水彩絵の具の「のり」に当たるものは「アラビアゴム」で、これはアカシアの木から採取された樹液からつくられるゴム。
長文レポートの前に断っておきますが、絵の具について調べているとカタカナの名前が複数出てきて、かなり、かなりややこしい!(ほら、パソコンとPCとラップトップは同じもの、みたいに)カタカナ用語は、読み手に合わせて簡単な呼び方にしているだけで同じものを指しているのか?それとも別物なのか?それを読み解くのがとても大変なのでした。。。
まずアクリル絵の具の説明では、「アクリルエマルジョン」「アクリル樹脂エマルジョン」「アクリル樹脂」など呼び方は複数みられたけれど、アクリル絵の具の説明において、それらは同じだと受け取りました。
また、今回は塗装に使われるペンキではなく、個人のクリエイターが絵を描く用によく使う水溶性アクリル絵の具について調べることにしました。アクリル塗料として延長線にあるペンキも含めてしまうと紛らわしくなるのです。というのも、ペンキにはウレタン系など複数種あり、アクリルとは別物も含む説明なのか、広範にペンキに関する記述なのか判断がむずかしくなってしまった。
合成樹脂エマルジョンを用いた絵の具を総称してアクリル絵の具ということもあるが、塗料として使用されるポリビニルアルコール(PVA)・エマルジョンを練り合せ材にしたものは、ビニル塗料とよばれ区別される。
引用元:コトバンク
調べはじめるとよく使われていた言葉、「アクリルエマルジョン」の理解からはじめます。アクリル絵の具の「のり」となる「アクリルエマルジョン」とは、アクリル樹脂を水に溶けやすい状態に化学変化させたものらしい。
例えるならマヨネーズ。混ざるはずのない水と油を乳化させて混ざった状態にさせているもの。つまりアクリルエマルジョンはアクリル樹脂が状態変化したもの。今回わたしが正体を知る必要があるのは「アクリル樹脂」のようだ。
※アクリル絵の具について一番わかりやすい説明をしていたWebページがこちら、サクラクレパスのホームページ。アクリル絵の具について知りたい方にもオススメです。
株式会社サクラクレパスホームページ(https://www.craypas.co.jp/press/feature/007/sa_pre_0006.html)
アクリル樹脂とは何?
アクリル絵の具の中で正体不明なアクリル樹脂。これを調べるのにとても時間がかかった。アクリル樹脂に関しては論文系だけでなく化学メーカーや商社の成分説明などなど、たくさんの説明があって迷宮入りでオーバーヒートしつつも、素人なりに調べてみた結果です。
どうやらアクリル樹脂とは広範なものを指す言葉で、その中でもアクリル絵の具に使われていそうなのが「アクリル酸エステル」のようで。この成分の有毒性から調べてみることにしました。
アクリル樹脂とは,アクリル酸エステルないしメタクリル酸エステルの重合によって得られる高分子化合物の総称 である。(中略)実際,アクリル絵の具をはじめ,コンタクトレンズ や歯科材料など,用途に合わせた多様なモノマーが設計さ れている
引用元:JST掲載 変貌自在なアクリル樹脂(https://www.jstage.jst.go.jp/article/kakyoshi/65/5/65_236/_pdf)
補足として、アクリル樹脂の説明でアクリル酸エステルという言葉の他には「メタクリル酸エステル」と「ポリアクリル酸エステル」も頻出ワードでした。
ポリアクリル酸エステルは、アクリル酸エステル単独で、またはメタクリル酸エステルやスチレンなどとの共重合体として塗料、接着剤、粘着剤に使われます。
引用元:モノタロウホームページ 化学製品・高分子製品の基礎講座(https://www.monotaro.com/s/pages/readingseries/kagakukoubunshikisokouza_0510/)
※このあたりになると、「絵の具」と「塗料」の言葉の使い分けがされていないのでさらにややこしい。
アクリル酸エステルとは何?
やっとたどりついた「アクリル酸エステル」。wikipedia によると「アクリル酸エステル」も1つのものではなく総称だったので、絶望。
アクリル酸OOOOというのはたくさんある色々なものの総称で、細かく分けるとまだ複数あるようでして。(ああ、ため息が出る。)これ以上カタカナ用語を羅列するとややこしいので、その詳細は以下リンクから確認してくださいな。
アクリル酸エステル(アクリルさんエステル)類は、アクリル酸とアルコールのエステルの総称である。 合成樹脂及び水性塗料・絵具、接着剤等の原料(モノマー)として使用される。
引用元:wikipedia
(※この一覧表内では「絵の具」と「塗料」の言葉の使い分けがされていなかったので、「塗料」をヒントに進めていく)
アクリル酸エステルの正体は複数ありました。なので、まずはその中でも「アクリル酸エチル」を調べてみることに。
理由は、アクリル酸エステルのwikipediaリストの中で塗料用途としては最上位に記載されていたので「アクリル酸エチル」の使用が一般的なのだと推測し、ピックアップしました。「アクリル酸エチル」の用途では1番手はアクリルゴム、2番手が塗料。その他のものはどれも3番手に塗料が記載されていた。
アクリル酸エステルの毒性評価の疑い
ここまで来てやっと前向きな事実が1つ分かりました。アクリル酸エステルと呼ばれるものの中でも、「アクリル酸メチル」は毒性評価がされている。その「アクリル酸メチル」は塗料用途の記載がなかったこと。ああ良かった!
はい。なぜ良かったのかというと、「アクリル酸メチル」は水生生物に対して毒性評価が確認されているからだ。アクリルの絵の具を使った後の汚れた水をほとんどの人は水道に流していると思うので、これが使用されていたらマイクロプラスチックの話と同じになってしまうかもしれない... 気持ち良く使えないなと。
アクリル樹脂を調べる中でたまたまたどりついた文献がこちら。
参考資料:化学物質評価研究機構(https://www.cerij.or.jp/evaluation_document/yugai/96_33_3.pdf)
アクリル酸メチルの有害性を伝えるもので、見つけた時は正直どうしようかと思いました。もしこれがアクリル絵の具に入っていたらどうしよう... と。
もし仮に入っていたとしても、毒性判断するためには毒性基準値とアクリル絵の具に含まれる実際の総量、絵の具の通常使用量などなどによって成分の濃縮度は変わるそうで。その量的な数字を正確に検証しないことには、一概に判断することはできなくて、アクリル酸メチルが入っていたとしても、アクリル絵の具=毒性?と結びつけることもできないだろうと。とはいえ、もし入っていたら、わたしはアクリル絵の具を気持ちよく使えないです。
何はともあれ、有毒性のある「アクリル酸メチル」は一旦アクリル絵の具に含まれている対象から外すことができて良かった。
アクリル酸エチルは生分解されている?
さて、アクリル絵の具に主に含まれていそうなアクリル酸エチルはどういった成分で毒性の疑いや生物への影響はあるのだろうか?
調べようとして辿りついたのが、化学物質評価研究機構による有害性評価書。難しいけれど読んでみて分かったことをまとめると以下になります。とりわけ、生分解性が推定されている、というのは明るい結果でした。
・アクリル酸エチルは生分解されるようだ
・水中底質には吸着されにくいようだ
・環境水中に排出された場合、主に生分解や蒸発して消えるようだ
・水生生物への生物濃縮性は低いようだ
※生物濃縮性というのが大きいほど生物へ与える影響は大きいとされている。
参考資料:化学物質評価研究機構 有害性評価書 アクリル酸エチル
(https://www.cerij.or.jp/evaluation_document/yugai/140_88_5.pdf)
これはあくまでも素人考えだけれど、生分解されるということは下水処理場で除去できているのではないか?と希望的に考えることができます。
なぜなら、下水処理施設では微生物を使って水をキレイにするという工程があるのです。
参考資料:日本下水道協会(https://www.jswa.jp/sewage/operation-public/)
アクリル酸エチルの生分解性の検証と下水処理における微生物の働きを正しく比べることは私の知識レベルではできません。これは全く根拠のない希望的想像だけれども、絶望的な事実でもない。
一方で、化学物質評価研究機構による有害性評価書には、アクリル酸エチルの悪い部分も書かれていました。特に気になったのは、一部の水生生物に対しては強い有害性を示すようだ、ということ。一旦河川に出てしまうと良くないのだろうと。
参考資料:化学物質評価研究機構 有害性評価書 アクリル酸エチル
(https://www.cerij.or.jp/evaluation_document/yugai/140_88_5.pdf)
先ほどの想像的仮説をふまえると、アクリル酸エチルは生分解性があることから、下水処理場で除去することができそうだ。しかし、一部の水生生物に対する有害性も認められているため、環境中に出てしまうと悪影響を与える可能性がある。という考えにわたしは至りました。(ここまで来るのにどれだけの時間がかかったことか...)
ちなみにだけれど、ついでにメモメモ。アクリル酸エステルの正体を突き止める際によく出てきた言葉、「ポリメタクリル酸エステル」について。これは汚泥を濃縮したり排水処理など汚水の処理剤としても使われているらしい。
参考:多木化学株式会社HP(https://www.takichem.co.jp/products/chem/water/takifloc.html)
はい。それではここまで素人なりに調べた情報を、わずかな知識と想像で補った結論をまとめてみよう。
まとめ (仮)
個人のクリエイターが使用する水性アクリル絵の具について、描くときに出てしまう汚水が環境に与える影響を調べるため、アクリルの絵の具の主な成分と有毒性について調べた。
アクリル絵の具の主な成分は、顔料とアクリル樹脂エマルションであり、今回のターゲットはアクリル樹脂エマルションの実体について。
アクリル樹脂エマルションは広範囲の化合物の総称であり、中でもアクリル絵の具に使用されているものはアクリル酸エステルだと分かった。アクリル酸エステルも化合物の中分類の総称であるため、より細かくみると「アクリル酸エチル」が絵の具に多用されている可能性が高い成分だと推測したため、今回は「アクリル酸エチル」をメインに有毒性を調べることとした。
アクリル酸エチル自体は有毒性も確認された物質である。生物への影響度の指標となる生物濃縮性は低いものの、そのまま環境水中にさらされた場合は水生生物への強い有毒性が悪影響を及ぼす可能性があると分かった。
一方で、アクリル酸エチルは生分解されると推測されていることから、微生物を活用している下水処理場の工程内で除去できるのでは?という考えに至った。
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これはあくまでもわたしの想像で補っている仮説で、絵の具を使う側の描き手でもあるので、こうであって欲しいという希望的なバイアスがかかっています。
もし下水処理場をすり抜けて環境にダダ漏れになっていてはマイクロプラスチックと同じで本当に困ることです。アクリル絵の具は「耐水性◎ 耐候性◎」と、耐久性をアピールしている絵の具でもある分、良くも悪くも一度作られたら永い時間存在することになる。
まだ明確な答えは出ていないけれど、今すぐ自分にできることも想像して実行するだよな、と改めて思いました。
今すぐできることは?
やはり、できるだけアクリル絵の具の汚水はそのまま水道へ流したくない。ならば流さない工夫をしよう!
まず、筆に残った絵の具はボロ布や新聞紙で拭き取るようにすること。そして、濁った水はそのまま一晩寝かせておくと、分離して水の色が透明に近くなります。
絵の具カスなどが沈殿してバケツの底に残り、上澄みの水は透明になるので。その状態で上澄みの水は水道へ流し、残った少量の水・バケツ底にあるカスはボロ布で拭きとります。
アクリル絵の具を使う時は、わたしはこのやり方をしています。この少しの工夫で汚れた水の流出を減らしたいです。
カドミウムフリーの色を絵の具を選ぶことは絶対!
過去の記事でも扱い、もう自分の中では当たり前になっているので、今回省略したことがこれ!
有害な顔料であるカドミウムを使った色は避けること!
「顔料」はどの絵の具にも入っているのでアクリル絵の具だけではない共通の問題。カドミウムという成分は有害性が認められていて、すでに世界的に絵の具メーカーでは使わない方向になっています。
が、まだ一部絵の具メーカーではラインナップとして存在しているので、わたしは選ばないようにしています。
感想
とても長くなってしまった。。。7,000字近くなりました。今回、このトピックを調べ始めてから公開するまでとてつもなく時間がかかり、さらに「スキ」をもらうともっと読みやすく伝わってほしい!という気持ちで書き直しを現在進行形で重ねています。
化合物の情報はあまりにも複雑すぎるし、カタカナばかりだし、用語は素人向けなのか正式名称なのか判別することすら難しい。情報のツギハギなので、正確ではないと思います。それでも数ヶ月、コツコツと調べながら下書きに追記→修正を繰り返していまして。正直、もう答えに到達できない、理解しきれない、無理だと思いました。調べても意味がないかもしれないと心が折れそうにも。でも、複雑すぎるからこそ、知ろうとせずにここまで目を背けてきたのかもしれない。だから分かるところまではやってみようと。
今回調べてみて、きれいな答えではなくとも、ひとつふたつと小さい答えは得られたので。それは収穫だし、自分の中のモヤは少しづつ晴れています。調べたいと思ったことを記録し、少しずつ蓄積していけばいい。そう改めて思い、これからも調べていこうと思います。
何より、クリエイティブな活動も環境に配慮して行いたいクリエイターは他にもたくさんもいるので、画材メーカーさん、発色や利便性だけでなく、絵の具製造の環境配慮とデータ公開をどうか加速してほしいと願います。
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