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環境への影響が気になる、油絵の具の中身を調べてみた
気持ちよく絵を描きたいので、画材の成分と環境への影響について自由研究で調べているシリーズ。今回は油絵の具です。
油絵の具はよくわからない。扱いが大変そう。子どもが使うには危ないらしい。
こう言った声をよく聞きます。小さい頃から絵を描くことが大好きだったわたしも、ロンドン留学をするまで26年間、油絵の具には一切触れることがありませんでした。でも使ってみると、水で溶く絵の具とは全く描き方が違って、すごく楽しかった。
絵の具を使うとき、「これって自然環境に... 大丈夫...?」とモヤモヤしたくないし、気持ちよく描きたいので、油絵の具についても調べてみます。
自由研究 エシカルにクリエイティブでは、自分なりに疑問に思った過程や調べてみて現時点でわかったことをシェアします。わたしが得ていた情報が古かったり、誤認がある場合はコメントをいただけるととても有難いです。 筆者より
→ 研究ポリシー
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油絵の具って、そもそも何?
まずは「油絵の具とは?」から。よく小学校で使われる絵の具のように水溶性ではなく、油性の絵の具です。絵を描くときは油を使って絵の具をのばし、油が酸素に触れて固まることで色が定着して絵が完成します。
油が固まるまでにとても時間がかかるので制作効率は悪いです。たとえば、色を重ねたくても先に塗った部分が固まるまで待たなければいけない。そうでないと、下の色を剥ぎ取ってしまったり、意図せず混ざって汚い色になってしまうことになる。ということで、重ね塗りを繰り返したり厚塗りをすると、完成まで平気で数ヶ月単位になる。逆に、やっぱりここを直したい!と思えばいくらでも剥ぎ取ることもできる。
水彩絵の具やアクリル絵の具とは、完成までの時間感覚が全く異なる絵の具なのです。
油絵の具の中身は?
さて、油絵の具の中身は何か?というと、
油絵具(あぶらえのぐ)は、顔料と乾性油などから作られる絵具で、油彩に用いられる。
引用元:wikipedia
顔料とは、色の素になる粉のことで、どんな絵の具にも必要なもの。この色の粉を定着させるために混ぜる「のり」が油絵の具の場合は「油」になります。
ちなみに、水彩絵の具の場合は「アラビアゴム(樹木から採れるもの)」、アクリル絵の具は「アクリル樹脂(プラスチックの一種)」が「のり」として色を定着させてくれます。
以前調べた内容は別のnoteにて。
◎透明水彩絵の具↓
◎水性アクリル絵の具↓
油絵の具に使われている油は?
油絵の具の中身に使われているのは、主にリンシードオイル。わたしが持っている大手メーカーのWINSOR&NEWTONを見てみると、チューブの裏にはほとんど「リンシードオイル」と書かれています。たまに「サフラワーオイル」が使われているようす。一般的にもリンシードオイルです。
英語表記で "Pigment" は顔料、"Vehicle" は媒介剤という意味。フランス製のものは "Liant" (媒介剤)と書かれている。
リンシードオイルとは?
油絵の具の主成分であるリンシードオイルとは何かというと、亜麻仁油(flaxseed oil)です。そう!あの食用でオメガ3脂肪酸が含まれていて健康にいいとされている食用油です。
食用のほか、油絵具のバインダーや木製品の仕上げ(木製ピッケルのシャフトなど)、床材のワックス、海外ではアロマのキーオイル、昔は医療用の油紙などにも用いられている。...(中略)...最近では、VOCを放出しない溶剤としてシックハウス症候群対策の塗料に使われている。
引用元:wikipedia
他にも使われているのはサフラワーオイル=紅花油。いずれも植物油かつ食用油でもあるのは安心感があり、この時点では環境負荷は低いと感じました。
余談ですが、DIYをやる人はワトコオイルという名前を聞いたことがあるかと。木目を生かしたオイル仕上げで人気のオイルです。ワトコオイルの主成分もリンシードオイルでした。
亜麻仁油を主成分に塗装しやすいよう配合された、ワトコシリーズの原点ともいえるスタンダード製品です。
引用元:ワトコオイル公式HP(https://www.hoxan.co.jp/watco/products/oil/)
色によって顔料の毒性は要チェック
油絵の具の中身、油ともうひとつの主成分である顔料についてお伝えしておきたいことがあります。
これはどの絵の具にも共通する「顔料」の有害性の問題。過去のnoteにも書いていることで、もう自分の中では当たり前になっているけれども声を大にして言いたいのがこちら。
有害な顔料であるカドミウムを使った色は避けること!
カドミウムという成分は有害性が認められていて、すでに世界的に絵の具メーカーは使わない方向になっています。けれども、まだ一部絵の具メーカーでは存在しているので、わたしは選ばないようにしています。一定の安全基準を満たしている「AP」のマークも絵の具選びの指標になります。
AP表示についてはこちらが分かりすい↓
参考:ホルベインHP
(https://holbein-shop.com/?view=smartphone&tid=9&mode=f3)
油絵の具にさらに必要な、2つの油
まず、油絵の具そのものに関しての環境負荷はそれほど高くないように感じました。(*どの絵の具にも共通する顔料の危険性は色ごとにチェックするとして)
しかし、透明水彩絵の具やアクリル絵の具と違うのがここから!
これら水性絵の具は水だけで描ける。けれど油性絵の具はさらにアイテムが必要です。油絵の具に馴染みのない人に向けて簡単にいうと、下記の感じです。
油絵の具
+油絵の具をのばす乾性油
+油絵の具をのばす揮発性油
2種類の油が描くために必要になるのです。それぞれの環境負荷についても調べましょ。
1. 乾性油
乾性油については、リンシードオイル(亜麻仁油)、サフラワーオイル(紅花油)が画材屋さんに並んでいるものです。前の話と同じく、どれも植物から採れる食用油なので大丈夫かと。
もちろん!廃棄の問題はあります。食用の油だって揚げ物をしたら、固めから捨てますよね?決して水道などには流さず、適切な油の廃棄方法で。
2. 揮発性油 ※要注意
さて、本題というか今回のポイントになりそうなのは揮発性油ですね。油絵の具の「扱いが大変そう」「危険そう」などのイメージはこの揮発性油からきているのだと思います。揮発性ということはお部屋に臭いが充満するということなので、臭いとその毒性には特に注意なのです。
揮発性油にもいくつか種類があり、テレピン油(ターペンタインとも呼ばれる)、ホワイトスピリット、ペトロールなどが画材屋さんに並んでいます。それぞれ見ていきます。
テレピン油;
テレピン油は松脂を蒸留した精油のことです。つまり植物性。ちなみに、かなり臭いです。
マツ科の樹木のチップ、あるいはそれらの樹木から得られた松脂を水蒸気蒸留することによって得られる精油のこと[1]。松精油、テレピン油[1]、ターペンタインともいう。
引用元:wikipedia
「ああ、あのスポーツでも使われいる松ヤニか!植物性だし安全そうじゃないか〜!」と思うのは早いです。植物性だから安全、天然由来だから大丈夫。という言い回しには、わたしは疑いを持っています。
実は、テレピン油には有毒性があり、取り扱いには要注意なのです。
大手画材メーカーのホルベインの安全データシートでも確認できるように、石油系有機溶剤であるペトロールよりも毒性注意の項目が多いです。しかも、水性環境への有害性も高いようです。つまり、川・海に流れたらよくないということです!
水性環境有害性 (短期/急性): 区分 1/水性生物に有害性
引用元:ホルベイン 安全データシート(https://www.holbein.co.jp/dcms_media/other/TURPENTINE_SDS_JP.pdf)
テレピンの毒性と注意喚起は厚労省のサイトにも書かれていました↓
参考:厚労省職場のあんぜんサイトより(https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/8006-64-2.html)
テレピン油の意外な用途
テレピン油の有害性を確認すると、なんか嫌だなあと思いました。そんなとき、テレピン油について調べていたらけっこう驚きな事実が。なんと、油絵の具を使わない人でも、すでに身近なところで使用されていたかもしれません。
実は、テレピン油は「洗剤」としてプロのハウスクリーニングにも使われているようです。なんと!驚きでした!
溶解力があり、揮発性も強いところからカーペットのシミ抜きに使ったりします。ハウスクリーニングのプロも使用されている裏技です。
引用元:ハウスクリーニングなび テレピン油の説明より抜粋(http://house-cleaningnavi.com/pages/jiten/senzai/turpentine-oils)
テレピン油は、油絵の具を薄めたり描いてる途中で消しゴムみたいに使えるアイテムでして。つまり油性の成分を薄めたり、落とせる=油性の汚れ落としになるということですね。
さらに、身近な製品の副産物でもあったようで。それが紙です。テレピン油は紙の製造工程で木材→パルプ化されるときに発生する成分からできるそうです。下記文献を読んで知りました。昭和のJSTAGE(文科省の学術文献サイト)掲載で古いのだけれども、工業製品の副産物であることはポジティブに感じられます。
木材をパルプ化する場合各工程に種々の副生物を生じるが... (中略)...副生物としては繊維質的副生物(バーク, ノット粕, 各種クリーナー粕等)樹脂質的副生物(トール油, テレピン油, サイメン油等)...
引用元:JSTAGE(https://www.jstage.jst.go.jp/article/jtappij1955/16/1/16_1_16/_pdf)
松の木からの製造工程がわかりやすく図解されている↓
参考:ハリマ化成グループHP
https://www.harima.co.jp/pine_chemicals/rosin2.html
テレピン油についていろいろ調べてみて、なんだかグレーな感じで、複雑な印象でした。植物由来で工業生産過程の副産物でもあるなら、作られるときの環境負荷は低そうなポジティブなイメージを持つけれど。いざ使うときには人体にも水の生物にも有毒性が強いと。。。
いいような悪いような、一筋縄ではいきません。人間のあらゆる生産活動は、白か黒かハッキリさせることは本当に難しい。
ホワイトスピリット、ペトロール;
ホワイトスピリット、ペトロールは石油を蒸留したものです。Petrolってイギリス英語ではガソリンですからね。もちろん臭いです。が、低臭に加工してある商品も売られています。
石油からできた有機溶剤なので、揮発する臭いと有毒性に注意です。同じく画材メーカーの安全データシートによると、テレピン油よりは毒性注意項目が少ないようですが。
引用元:ホルベイン 安全データシート(https://www.holbein.co.jp/dcms_media/other/PETROLE_SDS_JP.pdf)
揮発性油の選択は迷う
ここまで調べてみて、乾性油は食用油と同じものなのでいいとしましょう。揮発性油の方は.... 正直選択に迷いますね。
油絵の具を薄める用途で使える油は他にないのか?引きつづき調べたいところ。油は石けんの原料にもなりますし、いろいろ試してみてまたシェアしたいと思います。
参考:カネダ株式会社 食用植物油脂の説明( https://www.kaneda.co.jp/jigyou/syokubutsu-yushi.html)
油の排水・廃棄問題
油絵の具に使用する各油の原料については一先ず分かりました。
どの油を選ぶにしろ、次に油で気をつけなければいけないのが片付けの排水・廃棄の問題です。
今では川や海を汚してはいけないという意識から、キッチンの食用油でも揚げ物に使った油は固めて捨てるのが当たり前になっているので.... 油を水道にダダ漏れさせるのはやりたくない。
そんなことしないよ〜と思う人がほとんどだと思いますが、恐ろしいことに画材の使い方を書いたブログなどで「油絵の具は食器用洗剤や石けんで落ちます!筆は水道で洗えます!」という内容を見たことがあります。(これをどう思うかは個人の感覚によるかもしれませんが... )
油絵の具の場合、専用のブラシクリーナー液を使うのがベターだと思っています。
ボトルの中に筆を突っ込んで洗うため、水道に流されることはありません。生分解性のブラシクリーナー液もあるので、おすすめです。
生分解性に優れた植物由来の界面活性剤と、アルカリ剤を加えた強力タイプの水性クリーナー。
引用:ホルベイン商品説明より(https://holbein-shop.com/?pid=126505625)
わたしの場合、油絵の具はメインの画材ではないのでたまに使うくらい。使用頻度も低いので、1本のブラシクリーナー液を数年間ずーーっと使っていますが全く問題ないです◎ 汚れが下に沈殿して、液体は透明になるので。
液の汚れがひどくなってきたら、液体を固めて廃棄できる製品も売っているので選択肢にいれています。キッチンで揚げ油を固めて廃棄するのと同じだと思っています。
さいごに。絵を描くとき、油の取り扱いに注意
乾性油でも揮発性油にしても、油の取り扱いは常に要注意です!これは健康を守るためと、火事防止のためにも。
室内で油を使うときは臭いです!換気に要注意!そして画材の保管、油を含んだ雑巾や新聞紙などのゴミの保管も含めて、高温・火気・乾燥にも要注意です!
引火点が密閉状態では35度と低いので注意が必要です。
参考:(http://yamakei.jp/wood/top.html)
まとめ
道具が多いし、なんだか危ないって聞いたことがある。そんな風に言われてしまう油絵の具について主に原料について環境への負荷を調べた結果....
油絵の具の主成分、油は一般的にリンシードオイルが使われている。リンシードオイルは食用油としても知られる亜麻仁油のこと。絵の具本体に加えて、油絵では2種類の油が使われる。乾性油と揮発性油。乾性油も絵の具の主成分と同じく、リンシードオイルやサフラワーオイルなどの食用植物油が一般的で環境への悪影響は感じなかった。
揮発性油については、植物由来と石油由来に分けられる。植物由来のテレピン油は紙の工業生産過程での副産物であり、ホームクリーニング洗剤としても使われていることから身近な印象を受けたものの、人体や水生生物への有害性は高いことが確認できた。石油由来のペトロールはテレピン油よりも低いものの有害性が確認できた。原料としても石油資源の消費につながるため、あまり好ましくない。
揮発性油は、原料と使用時の有害性の点からもっとベターな選択肢がないのか?これからも調べていきたい。
油絵の具使用時の排水・廃棄問題については、油を下水道に流すことは好ましくないと感じるので、専用のクリーナー液や固形化させる処理剤を使うことがベターだと感じた。クリーナー液自体も下水道へ流出することはなく、長期間使用でき、現在は生分解性のある製品も選択ができる。
もちろん、絵の具選びの大前提として、色によって違う顔料成分の毒性は必ずチェックして選択をすること。
・・・
とても長くなりましたが、以上、気になっていた油絵の具の環境負荷についてわたしなりに調べた結果でした。アクリル絵の具の調査よりは楽でしたが、やっぱり知らないことを調べるのは大変。
この過程をシェアすることで、すこしでも画材を選ぶときに「環境負荷」という視点が増えていけばいいなと思います。
補足: 安全データシートの読み方
ちなみに、毒性などの区分表記で区分1とか数字で書かれていますが、わたしもはじめは「1と4って、どっちが毒性強いの?」という感じで、読み方がわからなかったです。例のごとく、政府のHPだと説明もよく分からない、、、民間のやさしい解説を見つけたのでリンク貼っておきます。
絵の具の色によって違う顔料の毒性区分を調べるとき、参考になればと!
↓
数字が小さい方が危険・有害性が高い。1(危険)⇔4(比較的安全)
参考:安全データシートの簡単な見方・解説
(https://www.ink-jpima.org/assets/pdf/201304.pdf)
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