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かわいいボブサップ
夜の湾岸スタジオ。
ズラリと並ぶ演者さんたちの楽屋。
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楽屋のドアに演者さんの名前の紙を印刷し、貼って回るのは助監督の仕事だ。
御多分に洩れず、その日私はドアに役者さんの名前の書いた紙を貼って回っていた。
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楽屋前で戸惑う巨体が見えた。
ボブサップだった。
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彼は、私を見ると大きな体をこごめて聞いた。
「コレ、ボクノヘヤ?」
ドアには「ボブサップ様」と書いてあった。
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彼は日本語が少しわかるようだったが、カタカナは読めなかったのだろう。
私はそうだと答えると、ボブサップは照れ臭そうにドアを開けた。
もしボブサップが間違えてドアを開けたら、中にいる人はびびっただろうなと思ったらちょっと笑えた。
しばらくして、ふと気がついた。
ボブサップに会うのは初めてではない。
フランスにいた頃、カンヌ映画祭でコーディネーターの仕事をいただいたことがあった。
映画祭期間中のカンヌ市内は異様なお祭り騒ぎで、突然目の前にハリウッドスターが現れたりする。
そう、ボブサップも現れた。
でかい黒い車が目の前に止まり、彼がカップアイスを食べながら出てきたのだ。
びびった。
何に一番びびったかわかるだろうか。
アイスの小ささである。
不思議なもので、ボブサップのあまりのデカさに、アイスが異様に小さく見えたのだ。
やはりボブサップは可愛いのであった。