夜の湾岸スタジオ。 ズラリと並ぶ演者さんたちの楽屋。 楽屋のドアに演者さんの名前の紙を印刷し、貼って回るのは助監督の仕事だ。 御多分に洩れず、その日私はドアに役者さんの名前の書いた紙を貼って回っていた。 楽屋前で戸惑う巨体が見えた。 ボブサップだった。 彼は、私を見ると大きな体をこごめて聞いた。 「コレ、ボクノヘヤ?」 ドアには「ボブサップ様」と書いてあった。 彼は日本語が少しわかるようだったが、カタカナは読めなかったのだろう。 私はそうだと答えると、ボブ
美術さんて、すごい。 初めてこの仕事に入った作品で思った。 あっという間に家を作る。 もちろんハリボテだけど、見た目はしっかり家。 ドアも開くし、(後ろもきちんと作り込む)冷蔵庫やらソファやらの他にそのドラマの家庭に見合った調度品が置かれる。デザイナーさんの腕の見せ所だ。 感心して見ていた私に声をかけた美術のおじさんがいた。 スタジオの主のようにそこにいた、小柄で丸っこいおじさんだった。 自分が手がけたセットのドラマを家で見るのが好きだと言う。 (そりゃそうだ
私はミーハーではない。 タレントさんを目にしても、「おお」と思うくらいだ。 そんな私もテンションが上がることがある。 なんのドラマだったか、スタジオでの撮影を終えた後のできごとだ。 夜の緑山スタジオは廊下もひんやりしていて、暗くて怖い。 足早に玄関ホールに向かっていたその時、後ろから二人の足音がついてくる。 そのうちの一人が、ずらっと並ぶ自販機のボタンを押しまくっていた。 歩きながら。 バシ、バシ、バシバシ!! 乾いた音が響く。 スタジオには深夜まで作業をする人
テレビの制作部をしていた時代がある。 初めての現場で慣れないことが多く、テンパっていた。 そんな私にみなさん優しくしてくれた。 頭髪の薄い助監督さんがいた。 薄いと言うか、両脇にうっすら生えているだけでほぼほぼハゲだった。 その真面目でよく動くTさんを主演キャストさんがイジっていた。 「おまえ絶対金髪が似合うよ」 「いいと思う」 「思い切れ!」 その場のノリだろうと気にしてはいなかった。 そもそも染めれる髪はそんなにない。 冬のロケだった。 早朝の宮益坂はロケに向
テレビや映画を見て、泣いたり笑ったりしますよね? その裏で本気で泣いたり笑ったりしている人がいるんです。 「世界一キツイ仕事かもしれない…」 私は寝不足と空腹と疲労感で意識朦朧としながら、手から滑り落ちそうになるカチンコを必死で握っていた。 そう、助監督である。 私は映画大好き女子で、寄り道を経てから憧れの助監督の仕事に就いた。 年すでに28歳であった。 パシリの助監督としては遅いスタートである。 「毎日芸能人に会えて華やかな世界!!」 なんて思われがちだが、日々