【切ない怪談】斎藤さんとガソリンスタンド
ガソリンスタンドに勤める知人には、仲のいい常連のお客さんがいた。斎藤さんという、近所に住むおじいちゃんだ。
斎藤さんはとにかく頻繁にそこのガソリンスタンドに来ては、給油や洗車を頼みつつ知人や他の従業員たちと楽しくおしゃべりをしていた。
雨の日でも洗車したがるものだから、流石に今日はやめときなよと知人が止めるが「数百円でも売り上げに貢献してぇんだ」とにこやかに言う。
斎藤さんの両親は昔ながらのガソリンスタンドを営んでおり、雨の日も真冬の寒い日も手を真っ赤にして働いているのを子どもの頃から見ていてその苦労を知っているからこそ応援したいのだという。
売上げを抜きにしても明るくて優しい斎藤さんをみんな慕っていた。
ある日の閉店間際、知人は一本の電話を取った。相手は斎藤さんだった。閉店時間である8時を少し過ぎるんだけど待っててほしいというのだ。
「全然いいけど斎藤さん、一昨日ガソリン入れたばかりだよね?」
「だけども遠いところに行くからよぉ、満タンにしておきてぇんだ」
だが8時を過ぎ9時を過ぎ、10時まで待ったが斎藤さんは来なかった。
どうしたんだろうなぁ、これ以上待つのもなぁと思い、斎藤さんの家へ電話をかけることにした。
斎藤さんの携帯にかけるが出ず、自宅の方へかけても出ないので困っていると、しばらくしてから自宅からの折り返しがきた。電話の主は斎藤さんの息子さんで、なにやらバタバタしている様子だ。
「斎藤さんからさっき行くからーって連絡もらったんだけどちょっともう遅いし帰るねって伝えてもらえますか?」
「えっ父からですか?父ですか?」
息子さんの反応に知人は困惑した。
「本当に父からですか?からかってるならやめてくださいよ」
「どういうことですか?」
「父は先ほど息を引き取りました」
息子さんの話によると、斎藤さんは昨晩倒れて最期まで目を覚ますことなく逝ってしまったので電話なんかかけるのは不可能だということだった。
リダイアルを確認すると、斎藤さんからかかってきた電話はリダイアルだった。
「だけども遠いところに行くからよぉ、満タンにしておきてぇんだ」
遠いところとは、天国のことだったのだろう。斎藤さんが亡くなったのはちょうど8時頃だった。
斎藤さんが最期まで気にかけてくれていたガソリンスタンドで、知人は今日も給油をし洗車をし常連の方々を楽しくおしゃべりをしている。
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