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【北欧図書館・最前線9】スウェーデンから:故郷に戻ったドラァグクィーン

<スウェーデン図書館協会のウェブサイトの記事から>

同性愛者への差別を1981年に禁止したノルウェーを先頭に、同性カップルの法的保護、同性登録パートナーシップ、トランスジェンダーへの差別の禁止、同性婚などの法整備が進められてきたこともあり、北欧はセクシャルマイノリティに寛容な地域として認められている。しかしそうした評判と逆行するような事件も起こっている。

ドラァグクィーンの読み聞かせプログラム

北欧の図書館界では、図書館でのLGBTQ関係のイベントへの脅迫や妨害行為が、頻繁に報告されている。もっとも非難・批判が多いのは、図書館での子どもたちへのドラァグクィーンの読み聞かせプログラムだ。

「ドラァグクィーン読み聞かせプログラムとは、ドラァグクィーンが子どもと共に読書の時間を過ごすことで、子どもが性的多様性について感じたり想像をめぐらせたり、自分の性自認について気づきを得たりするきっかけを作り出すイベントである。セクシャルマイノリティに対する差別が顕在化するアメリカで2015年に始まった。

このプログラムは世界中に広がっていった。プログラムを牽引する団体(Drag Story Hour :DSH)のウェブサイトには、アメリカ国内28箇所の支部と、東京も含めた海外6カ国の支部が示されている。

プログラムへの脅迫・妨害が日常化している

しかし「ドラァグクィーンの読み聞かせ」は、プログラム開始当初から現在まで、批判が絶えない。プログラムを実施している図書館からは「ドラァグクィーンの読み聞かせ」に関して、図書館長への脅迫電話・手紙、参加者への妨害活動、反対デモなどの実態が赤裸々に報告されている。それは性的多様性に寛容とされる北欧諸国でも同様である。

図書館が性的マイノリティの包摂の中心となる

そんな中で、あるスウェーデンのドラァグアーティストMisty Bubbleが、故郷の図書館(Nyköpings Stadsbibliotek)にLGBT関係の本を集めた「虹の棚」ができることをきっかけに、オープニングパーティーに出演した。Misty Bubbleは「普段はこういう仕事はしないけれど、地元に恩返しをしたかったから」と出演の理由を説明し「図書館は誰にとっても利用しやすく、特に重要な役割を持っている」と語っている。

ドラァグクィーンの読み聞かせへの妨害が絶えることはないが、北欧の図書館では文化・情報の公開性と開かれた議論という図書館の原則を拠り所にして、プログラムの実施を敢行している。

<出典>

■Nyköpings Stadsbibliotek「虹の棚」オープンニングイベントの動画
Annika Clemens, Reportage, Misty Bubble: ”Jag kommer vara mig själv ännu mer”, https://www.biblioteksbladet.se/nyheter/reportage/misty-bubble-jag-kommer-vara-mig-sjalv-annu-mer/

■アメリカでの図書館のドラァグクイーン読み聞かせプログラムを牽引する団体Drag Story Hour(DSH)
Drag Story Hour, https://www.dragstoryhour.org/

■日本支部「ドラァグクイーン・ストーリーアワー東京 読み聞かせの会(DQSH東京)」
http://dragqueenstoryhour.tokyo/

■ニューヨークパブリックライブラリーDrag Queen Story
Drag Queen Story Hour at NYPL, https://www.youtube.com/watch?v=5dTm0YBwU0A

■「虹の棚」
図書館において、性的マイノリティをテーマとする小説、実用書・専門書、コミック、映像資料等、さまざまなメディアが集められたコーナー。LGBT関連団体の資料などのパンフレットが置かれることもある。


「虹の棚」(フィンランド・カッリオ図書館)

■「虹の棚」フィンランドの例については以下を参照
吉田右子・小泉公乃・坂田ヘントネン亜希『フィンランド公共図書館:躍進の秘密』新評論, 2019, p. 126-130.

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