
【北欧図書館を支える社会の仕組み 5】社会課題に挑戦する公共デザイン:コペンハーゲンの公園スーパーキーレン
スーパーキーレン(Superkilen)はデンマーク・コペンハーゲンのナアアブロー地区にあるだれもが居場所を見つけられる公園
スーパーキーレンの誕生
ナアアブロー(Nørrebro)は多くの移民が移り住んだ地域で、コペンハーゲンのなかでも特に規模の大きい移民の居住区である。コペンハーゲンの中心からバスに乗って10分ぐらい行くとこの地区に着くが、そこは一瞬デンマークにいることを忘れてしまうような移民文化が濃い場所となっている。ムスリム移民が多く、店先の表示の多くはアラビア語やペルシャ語で書かれている。食料品店や衣料品店、雑貨屋に至るまでイスラム系の店がたくさんある。
ナアアブロー地区に「スーパーキーレン」と名付けられた公園がオープンしたのは2012年6月のことだった。公園はNørrebroparkenからMjølnerparkenまで全長750メートルに及ぶ公共地区にある。公園は赤・黒・緑の3つのスペースに分かれて、それぞれ特徴あるスペースとなっている。赤のスペースはマーケット・スポーツ・文化をコンセプトに遊具が置かれイベントが開かれる。緑のスペースは遊歩道が整備され散歩やピクニックのための場所となっている。黒のスペースは地域住民の出会いの場所としてデザインされていて、なだらかな斜面に白いラインが描かれた舗道はスケートボーダーが技を磨く格好の場所となっている。

ソマリアのバスケットゴールと日本の滑り台
スーパーキーレンが有名になった理由の1つは、そこに設置された遊具や設備が世界中から集めたデザインで構成されていたからである。たとえばアメリカ、台湾、中国、ロシア、カタールのネオンサイン、様々な国のベンチ、モロッコの噴水、イギリスやスコットランドのゴミ箱など。遊具にはアメリカの鉄棒、アフガニスタンやイラクのブランコなど。日本からはタコの形をしたユニークな滑り台が導入された。南アフリカやアルゼンチンのバーベキュー台、ソマリアのバスケットゴール、スペインの卓球台、タイのボクシングリング、ブルガリアのチェステーブルなどもある。そしてデンマークの公共施設では設置必須の自転車ラックもフランスやノルウェー、オランダ、フィンランドといった自転車大国から取り寄せられた。マンホールや排水溝も世界各地から運ばれたパーツでできている。

この公園は50以上の出身地からデンマークに移住した人々が住むアウターナアアブロー地区の再開発計画として発案され、コペンハーゲン市と不動産関係者が作る民間組織Realdania が共同で開発を進めた。設計に携わったのは建築事務所Bjarke Ingels Group、アーティスト集団Superflex そしてドイツの景観デザイン企業Topotek1。いずれも世界各地でユニークなランドスケープデザインを展開している組織である。
コミュニティ再生のストーリー
コミュニティ再開発で思い起こされるのは、同じく難民集住地区で図書館を中心にしてコミュニティを再生したレンテメスターヴァイ図書館(Rentemestervej Bibliotek)のストーリーである。住民の意見を取り入れた複合施設には、図書館を中心に知的障害者が働くカフェ、行政の出張サービス、地域自治組織の集会所、工房、ケーブルテレビとラジオの放送局、住民センター、文化ホールが併設された。外壁と内部の壁は、デンマークでは知らない人がいないグラフティ・アーティストであるHusk Mit Navnが描いたユニークなイラストで埋めつくされ、これまで図書館が無意識に纏ってきた権威的なオーラを極限までに抑えている。カフェは子育て中の若い世代に大人気だという。

社会課題に挑戦する公共デザイン
治安が悪かった地域を、住民の声を中心に据えて公共施設をデザインすることで見事によみがえらせたレンテメスターヴァイ図書館の事例は、スーパーキーレンのあり方とも重なる。もちろん型破りなやり方を重ねて出来上がったスーパーキーレンに対する批判はたくさんある。それでもスーパーキーレンがデンマーク内務・住宅省によって脆弱住居地区と判定された地域に変革をもたらしたことを否定する人はいないだろう。治安面で深刻な問題を抱えていた場所は、地元住民がくつろいで過ごし子どもたちが安心して遊べる場所へと変化した。その貢献はとても大きい。
【参考資料】
■Superkilen : A Project by Big, Topotek 1, Superflex, ed. Barbara Steiner, Arvinius + Orfeus Publishing, 2013, 224p.
スーパーキーレンが実現するまでの型破りな方法論について詳しく解説されている。世界各地から集められた設備、遊具、樹木についての写真と説明は181ページから214ページに掲載されている。
■スーパーキーレンの開発を進めたRealdaniaによる紹介ページ
https://realdania.dk/projekter/superkilen
3本のVIDEOが公開されていて、スーパーキーレンの様子と公園ができる前の同じ場所の動画をを見ることができる。
■コミュニティ再生の立役者となった公共図書館
小泉 隆『北欧の美しい図書館』X-Knowledge, 2024(写真p. 28-31,解説p. 87-88)