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【北欧図書館の仕掛け5】図書館のお家芸:「新刊・古典ミックス戦略」
図書館と書店、どちらも本を提供するという点で同じ目的を持った施設である。でも図書館には書店とは異なる大きな特徴がある。それは新しい本と古い本を同時に紹介できること。1日に200点以上もの書籍が刊行される出版大国日本では、数日書店に行かないと平積みされている本のラインナップが、前回の訪問時からがらっと変化していることに気づく。そう、知らないうちに本はどんどん入れ替わり、目にするまもなく消えていってしまうのだ。一方、コレクションとなる資料の数は限られているものの、図書館の書架には本の専門家である司書が精選した本が安定して並んでいる。
このような図書館の性質を最大限に利用した図書展示の方法が、新刊書と刊行から年数が経過した本をミックスして紹介するやり方である。たとえば出たばかりの新刊文芸作品と100年以上読み継がれてきた古典、新人作家の絵本とロングセラーの絵本、ある作家の最新作とデビュー作がセットで紹介されることによって、図書館に訪れた人は自分がまったく知らなかった世界に入っていくチャンスを得ることができるのだ。
「新刊・古典ミックス戦略」を徹底して行い、大きな成果を挙げた小さな図書館がある。ヴェストレ・トーテン図書館(Vestre-Toten Bibliotek)はノルウェーの首都オスロから2時間ほど離れた小さな町ラゥフォス(Raufoss)にある。人口が13000人ほどのこの町では図書館がほとんど唯一の文化提供施設である。
2000年代半ばに大規模なリニューアルにあたってこの図書館が取り入れたのが、イギリス発祥の「オープニング・ザ・ブックス」と名付けられた資料提供サービスの仕組みだった。利用者が使いやすい図書館をめざして文字通り「本を開いていく」ことを趣旨としたこのシステムでは、館内に書店の平台のような図書展示台を複数置いて、そこに司書のおすすめの図書が配置されるのが特徴である。
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この台には司書が利用者に読んでもらいたいと思う本が並べられている。書架に埋没してしまってなかなか目に留まらない本と利用者を結び付けることが、この展示台の役割。新作と旧作をバランス良く並べるには司書の図書に関する専門知識と資料に対するセンスが必要不可欠である。カラフルな表紙に誘われて、利用者は無意識にこの棚に近づき、そして意外な取り合わせに惹かれて自分にとって馴染みのない本を手に取ってしまう仕掛けである。
最近書店では図書の並べ方、本の紹介を書いたポップに工夫を凝らして、読者を獲得しようとする努力に余念がない。図書館はそんな書店の進化をリスペクトしつつ、図書館でなければできない方法で図書を紹介することで、読書空間の厚みがどんどん広がっていくことは間違いないだろう。
■本を開くことで大きな成果を挙げた小さな図書館のストーリー
マグヌスセン矢部直美・吉田右子・和気尚美『文化を育むノルウェーの図書館:物語・ことば・知識が踊る空間』新評論, 2013, p. 123-136.
■Opening the Book
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