じめじめ寒い台北の冬は温泉に限る、と実感した話
2007年、冬。
私は布団をひっかぶり、ずるずると引きずりながら、台北の部屋の中を右往左往していたのだった。
「なんでよ…台湾って南国じゃなかったの…?」
確かに南国ではある。しかし台北は台湾島の最北地域。冬には朝晩10℃近くにまで気温が下がることもある。
なのに、暖房がない。
国立台湾師範大学・国語教学中心から徒歩5分、師大夜市の入口近くのマンション1階にあった私の部屋は、大家さんの家を間借りするタイプだった。
台北の冬は、まるで日本の梅雨のようにしとしと雨が続く。大家さんが、日本の家庭では見たこともないくらい巨大な除湿機を貸してくれた。
「湿度が下がれば、寒くなくなるから」と、大家さんは言ってくれた。年代物で結構な轟音を立てる日立製の除湿機をフル稼働させていたが、いや、寒い。熱源となるものがない状態でこの冬を乗り切るのはきつい。きつかった。(ので、後でこっそり小型のハロゲンヒーターを買ってしのいだ。)
そして2023年、12月。コロナ禍以来の冬の台北を訪れるにあたり、私はまじめに考えた。
コロナ禍明けから、台北のホテル料金は爆上がりしている。そして追い打ちをかける円安。かつて一泊8,000円で泊まれたホテルが14,000円くらいになっている感覚だ。コロナ禍の少し前、雨後の竹の子のように増えた「内装(だけ)はこぎれいでお手軽なホテル」が、もうお手軽ではなくなっていた。しかも、その手のホテルは、立地の良さを楯に、老舗ホテルではあり得ないほど部屋が狭い。壁が薄いことも多く、古いビルを改装したタイプだと水回りもさほど良くなかったりする。バスタブはないのが普通だ。
そして私は思い至る。
…同じ値段で北投温泉に泊まっちゃえば良くない?
台北中心部からMRTで40分ほどのところにある北投温泉は、台北市街からもっとも近い、伝統ある温泉街だ。MRT新北投駅を出ればすぐに、カジュアルからラグジュアリーまで、多くの温泉ホテルが建ち並んでいる。
一人旅で高級温泉ホテルに泊まるほど私は贅沢ではない。いつか大事な人と一緒に日勝加賀屋ホテルに泊まるのが私の夢だが、今回は市街の中級ホテルの代替として宿を選んだ。
台北市街中心部の、ダブルベッド以外にはスーツケースを置く場所にも困るほどの狭さの、窓もない、バスタブもない、壁も薄いホテルの一室の料金と同じ価格で、私は新北投駅徒歩5分、20平米、客室温泉がある部屋を確保した。
市街地までは45分ほどかかるが、東京都心部に住んでいたって、ちょっと出かけたら乗り換え込みでそれくらいは普通だ。気にはならない。
今回泊まった部屋は、居住スペースの設備はぎりぎり3つ星といったところ。しかしダブルベッドを除いても十分な広さがある。そして何より、いつでも好きなときに入れる、私専用の温泉があるのだ。
今回の滞在は短かったため、この温泉ホテルには2泊しかしなかった。
でもわかったことがある。
…台北の冬に温泉ホテルに泊まるの、めっちゃいい…!
滞在中、半分の日程は雨模様だった。台北の冬には慣れてはいるが、やはり一日中じとじとと降り続く雨で、思うような写真が撮れなかったり、濡れた折りたたみ傘をいちいち開いたり閉じたりするのは煩わしいものだ。
でも、これまでの冬の雨の日とは、私の心持ちは明らかに異なっていた。
「でもまあ、部屋に戻れば温泉あるしな。」
そう。多少雨に濡れてひんやりしようが、私は寒さにおびえる必要はないのだ。温泉に入ればすっきりぽかぽかなのだ。
私には、温泉がある。
そのことによる心理的なゆとりがこれほどとは…!
起きてすぐに朝風呂に入り、夜部屋に戻ってきたらまた温泉に入る。時間を気にする必要もない、部屋付き温泉のメリットを私は存分に享受した。(大浴場は大浴場で楽しかったけど。)
台北の雨の冬がなんぼのもんじゃい、私はぽかぽかだ。
…とまあ、こんな体験をした2023年の冬。
台北で冬に温泉ホテルに泊まるの、かなり良かったです。