稲角新平 桜井敏生というヒト2021.2.6
〈桜井先生は寡黙でシャイなヒト〉
ある日の東京造形大学での出来事。
いつも淡々と仕事をしている。
余計なことは言わない。
仕事をする姿を見せることで、皆が勝手に考え行動する。
気付かれないようにデッサンを覗き込もうとすると、スケッチブックを胸に当ててサッと移動する。
少し恥ずかしがり屋さんの一面を見たと思った。
〈桜井先生は穏やかで謙虚なヒト〉
ある日の東京造形大学での出来事。
研究生の私が彫刻準備室で節約のために自炊をしていると、
「倹約しなきゃね」と言ったことを覚えている。
桜井先生の昼食は、いつもお弁当持参。
体調を考慮してのこともあるかもしれないが、無駄な出費を抑えて彫刻の制作にあてているのだろうと思った。
自分も見習って仕事の時の昼食はお弁当にしている。
〈桜井先生は正直で誠実なヒト〉
ある日の新制作展の会場での出来事。
作品の後ろの目立たない場所に張り付けてある出品表の字が間違っていたみたいで、その字をご自身で修正したあと、
「出品表に(自分で)書いてある字が間違っていた。恥ずかしい・・・」
と、わざわざこちらに言いに来ていた。
そんなこと言わなければ分からないのに。
〈桜井先生は彫刻家で理想のヒト〉
ある日の東京造形大学での出来事。
たまたますれ違うことがあった瞬間に、
「新制作も東京造形大学も桑沢デザイン研究所もやめて、ただのヒトになります」
と言って去っていったのを鮮明に覚えている。
衝撃的だった。
その後、一度だけご自宅に訪問させていただいたことがある。
ご自宅の外にも中にも、至る所に置かれた数えきれない彫刻の数々。
その2~3年後くらいだったか、東京造形大学で企画された「桜井敏生頭像展」にならんだ彫刻の存在感に圧倒された。
ただのヒトではない彫刻家の存在を改めて感じた。
同時に、自分もこんなヒトでありたいと思った。
↑ 写真提供 稲角新平 2006年頃町田にて 左稲角新平・井田勝己・桜井