「突然のピアサポート」「キャンサーロスト 読書感想文」
お盆休みの週末。突然、電話が鳴りました。
「はい」と出ると、「あの、読売新聞に出てた方ですか?」と。
どうやら、読売新聞の記事を読んで、連絡をくださったようです。
地方在住の女性の方(Aさんとお呼びします)でした。年の頃は60歳くらい。昨年、肺がんに罹患したそうで、辛い胸の内を聞いてもらいたく、勇気を出して、電話をかけてきたようです。
Aさんは家族に自分の気持ちを解ってもらえないことがとても苦しそうでした。
肺がんと分かった時、ご主人に「自業自得だね」と言われたそうです。
Aさんは「自分がタバコを吸っていたからなんです」とご自身を責め、泣いていました。
辛くて、生きる気力をなくした・・・とも。
手術は予想以上に広範囲の摘出があり、体力的にきつい状態。
しかも、それを夫に伝えられない。
がんの話ができる友だちもいない、とのことです。
Aさんの心境はわたしが罹患して1~2年の頃と似ています。
家族に理解されないことも実はよくある話です。家族はとても心配しているのですが、受け止めきれない時期があったりします。がんをきっかけに離婚してしまうことも。
お話から、ご家族のがんの知識も乏しいと思われます。きっと、肺がん=喫煙者と思っているのでしょう。
肺がんと喫煙について、分かりやすい解説がありましたので、掲載します。
これは健康な方にも知っていただきたい情報です。過去には「タバコを吸うとがんになる」というニュアンスの定義が植えつけられ、今になって、覆すことが困難状況に陥っているように見えます。
わたしは2018年に肺腺がんステージⅣに罹患したのですが(現在は終末期とステⅣを行ったり来たり)、自覚症状が少なく、主治医に原因不明と言われました。肺がんと伝えると、タバコを吸ってたから?と思われるのが嫌で、罹患当初、人に伝えられませんでした。
Aさんは精神的に不安定な様子でした。過去にわたしががん相談支援センターや精神腫瘍科や心療内科にもお世話になったことを伝えました。
「あぁ、そういうのがあるんですね!」
そして、Aさんはこう言いました。
「お元気な声でよかったです!安心しました!水戸部さんは希望です!」
肺腺がんステージⅣで、終末期を体験したわたしにとって、Aさんは希望でしかないようです。
ひとしきり話をして、「一緒にがんばりましょうね!」と伝え、清々しく電話を切りました。
どうかどうか、生きる希望を失わずに、こころもからだも回復に向かいますように。そして、大病を患ったことで、何気ない日常が素晴らしいことを感じ、今までとは違う新たな自分の発見を楽しまれますように・・・
***
さて、話は変わって、花木祐介さんのご著書「キャンサーロスト」の感想を述べたいと思います。
一家の大黒柱である花木さんは38歳の時、2017年に中咽頭がん(ステージⅣ)に罹患されました。
幼い子どもふたりを抱え、住宅ローンもあり、昇進も見込まれなくなった、との書き出しはわたしが経験した奈落の底とよく似ています。
キャンサーロストという言葉はキャンサーギフトの対義語なんですね。
がんになって、失ったものは人それぞれ傷跡になっているのが現実。それを具体的に綴られています。
ご自身のお仕事に対するお話が中心でしたが、わたしも同じように感じた一節がありました。
「私が採用担当者だったら、健康な人を選んでしまうだろう」
まさに、がんで半年後に仕事を手放したわたし。その後、1年半の間、就職するのに苦労してきました。
不安を悟られないよう、平静を装ってしまうことや、9か月間の休職の後、入ったばかりの会社に復職し、周りの自分に対する接し方の変化は本当に辛かったろうとお察しします。体力は十分あるのに、仕事を任せてもらえない。アラフォーの男性の歯がゆさや、焦りは相当なものと感じました。
わたしだったら、仕事辞めちゃうかな…
そして、がんを伝えずに就職するかな…いや、無理かな…
わたしに置き換えて、色々なことが頭の中を巡りました。
復職した際、「座っているだけでいい」と言われたこと、正直、人権無視だと思いました。
いつも真面目で優しく、優秀な花木さん。
そんな普段の花木さんからは想像できないような様々な葛藤を垣間見ました。
そして、ここでもやはりがんによる経済毒性が勃発しています。でも、コツコツ節約する花木さんは本当にきちんとしている方だなぁ、と尊敬!!(家計には無頓着なうちの夫にも聞かせたい!)
人間関係に関して、絶縁という言葉が出てきました。これは、本当に悲しいことです。社会がまだまだがんを知らない、がん患者の気持ちが理解できない結果です。ここ、何とかしていきたい!わたしの宿題です。
わたしの場合ですが、がんになって、トンネルを抜けたとき、お付き合いの幅が広がりました。その先に花木さんとの出会いがありました。
そして、友人も一瞬疎遠になったとしても、その人に「がんを理解してもらいたい」、「がん患者の諸々を伝えたい」という想いのわたしは、いつかきっとわかってくれる、と信じていましたので、人間関係にマイナスはありませんでした。
しかし、元気な人と同じ土俵にいると、つらさも倍増します。その人にしかできないことがあるのもまた事実です。ある日突然、日常が奪われることがありますが、それでも強く生きていける人でありたいし、あってほしい。先が見えない苦しさは実は誰もが抱えていることなのです。
花木さんのイメージになかったのですが、転職を繰り返されていたことにも驚きました。そして、仕事での焦りはわたしにも共通しており、がんになって離職し、ほどなくすると、社会との繋がりが途絶えていて、焦っていました。
やはり、必要なのは、
もっともっと、社会にがんを理解してもらいたい!
ということ。
わたしの場合、仕事を失うなどのキャンサーロストもありましたが、それ以上に得たものも多く、具体的に言えば、人への理解が深まったことや、病気だけでなく、障がいをお持ちの方と交流するようになったことで、弱い立場と思っていた人が強く生きている世界を知ることができました。仕事もまた、がんに理解のある企業と出会うことができ、活動の幅が広がり続けています。これは、がんになっていなければ、経験できなかった世界です。
花木さんのご本はご自身を見つめる力と、データを持ち合わせた解析力が素晴らしく、わかりやすい文章でまとめられていました。そして、夫と言う稼ぎ頭がいるわたしとは全然違う精神的なプレッシャーや焦りを感じていらっしゃることもよく伝わってきました。
一般社団法人がんチャレンジャー 代表 花木裕介さんのご活躍が日本の社会に益々広がりますように。
では、今日はこの辺で。
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