幸せの波

 とある週末の夜のこと。


「あー気持ちよかったなー。ささやかな幸せだ〜」      閉館間際の地元の日帰り温泉を出たところで、夫がこうつぶやいた。


ひんやりとした空気を吸い込みながら夜空を見上げると、北斗七星やカシオペア座が見えた。


「ううん、ささやかなんかじゃない。何気ない当たり前のこんな日常こそが、大きな幸せなの。お金持ちになることとか名声を得ることが、必ずしも幸せとは限らないんだよ」隣を歩く夫に、こう私は答えた。


すでに閑散としている駐車場。ゆっくりと車へ向かって歩く。夜のしじまが二人を包む。


 私は、時折り、自分の中に押し寄せてくる"幸せの波"を感じる。それは、旅行へ行くとか豪華なプレゼントをもらうなどという特別なことではなく、そこらじゅうに転がっている、何気ない当たり前の光景。


 たとえば、主人と夜のウォーキング中、啼き声につられて頭上を見上げると、Vの字に飛ぶ白鳥の群れが見えたこと。
たとえば、温泉から出たあと休憩所で主人の横に座り、炭酸飲料のフタを開けた途端、噴き出しそうになって顔を見合わせて笑い合ったこと。
そんな小さな"幸せの波"は、時には大きなうねりとなり、私を最高に満ち足りた気持ちにさせる。


 お父さん、いつもありがとう。こんな幸せを感じながら日常を過ごせることに感謝しているよ。
もうすぐ、30回目の結婚記念日だね。これからも、ささやかで大きな幸せを感じながら、いつまでも一緒に歩いていこうね。

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