小倉百人一首で遊ぶ 72番歌
音に聞く高師の浜のあだ波はかけじや袖のぬれもこそすれ
祐子内親王家紀伊(生没年未詳)
出典『金葉集』
あなたが浮気者だという噂は知っていますよ。後で泣く事になると分かっているのに、そんなあなたの言葉を真に受ける訳ないじゃない。
可愛い歌ですね。祐子内親王家紀伊が70歳の時に詠んだ歌です。こんな女性に憧れます。
祐子内親王家紀伊は母である小弁とともに、後朱雀天皇の皇女祐子内親王に仕えました。平経方の娘で、藤原重経の妻(妹という説も)といわれていますが、詳しい事はほとんどわかっていません。
72番歌は1102年5月に催された「堀川院艶書合」で詠まれたといわれています。「艶書合」というのは、貴族が恋の歌を女房に贈り、それを受けた女房たちが返歌をするという歌会です。
そこで当時70歳の紀伊に贈られたのが、29歳の藤原俊忠の歌
人知れぬ思いありその浦風に波のよるこそ言はまほしけれ
でした。
人知れずあなたに思いを寄せています。荒磯の浦風に寄せる波のように、夜になったらあなたのところに行きたいです。
という意味の歌ですが、「寄る」と「夜」、「(思い)ありその」と「荒磯(ありそ)」を掛けて、なかなか技巧的です。けれど、紀伊の歌はさらに上をいきました。
「高し」「あだ波」「かけじ」「濡れ」と、波の縁語をふんだんに盛り込み、男の浮気心を可愛らしく皮肉っています。
人生の大先輩である70歳の女房の歌に、返された相手はもちろん、歌合に参加していた人たちも、思わず拍手したくなったのではないでしょうか。
「年を取って良い事は、失うものが少ない事。」と、ハウルの動く城でおばあさんになったソフィーがいいます。確かに、そうかもしれません。けれど、それだけではないように思います。
年を取るということは、それだけたくさんの経験をしたということ。絵にかいたような普通の生活を送っていたとしても、年下の私たちが知らないことをすでに経験していて、それを知っている。おじいちゃんおばあちゃんの持つ知恵は、ものすごい宝物です。
とてもお話し好きなおじいちゃんおばあちゃんであっても、自分の日常の経験は、あまり話してくれないように思います。なぜなら、自分にとってそれはあまりにも普通のことだから。けれど、私たち若輩者からすれば、それはびっくりするような知識や経験だったりします。
私の祖父母は既に他界しましたが、両親は元気です。たくさん話をしておきたいと思っています。
日に焼けた本のページを繰るような昔語りを3時のお茶と
侑子
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