30歳と「Bee and the Whale」
30歳になった
2023年の5月で30歳になった。その誕生月に、ceroとGalileo Galileiの新譜がリリースされた。
この2バンドは自分にとって、学生時代から「時代の受肉体」として追ってきたバンドで、リリースがあればリアルタイムで聴いてきたバンドだった。彼らが作る音楽や、その背景にあるものを自身のコンパスの一つとして活用してきたし、その2バンドのリリースがどちらも大変すばらしかったのは、30歳という節目のよいはじまりになったとうれしく思っている。
Galileo Galileiとわたし
特に、Galileo Galileiについては、彼らが自分と同じように元々がロキノン系のフィールドを通過してきたということもあり、より親近感を感じながら追っていた。彼らがYoutubeにアップロードするカバー動画なんかは、いつも深い共感とともにリリースを楽しみにしていた。
特に好きなのはスミスのカバー。訳詞の言葉のはまり方がすばらしい。(自分が熱心なスミスリスナーでないというのはあるかもしれないが…..まあそれはよしとしてください)
今回のリリースは、一度Galileo Galileiというバンドを保留し、尾崎兄弟がさまざまな活動を経て再結成したこれまでの流れが全て詰まっていると感じられた。
再結成してくれるだけで超うれしいのに、これまでに経た時間(=自分も同じように20後半から30になるまでを過ごした時間)をリアルタイムのリリースで届けてもらえるなんて、こんなに幸せなことなかなかない。
という感じに、とにかくエモってしまっているので、「Bee and the Whale」という素晴らしいアルバムについて思うことをひたすら書きたいと思った次第なのです🙏
「Bee and The Whales」
まず、このアルバムの良いかつ不思議なところは、とにかくサウンドのバリエーションが多いのにまとまりがあるところと、風通しのよさがあるところ。うまく言えないけど、複数人が関わってアイデアを出し合って造られたサウンドという雰囲気を感じる(そして共有されているサウンド像の解像度がめっちゃ高い)と思う。
例えばTame Impalaの「Currents」なんかも、音色やアイデアの多さとまとまり具合は近いところがある気がするけど、この風通しの良さはなかった。風通しがいいというか、サウンドが鮮やか、さわやかなのがそういう印象になっているのかな?
今作は全曲に盟友クリストファー・チュウがプロデューサーとしてクレジットされている。まだインタビューなどで触れられてるのを見ていないけど、ALARMS以来のタッグだったみたいで、とにかく音色が多いけどまとまって聞こえるのは彼の功績があるのかなと思ったりする。
以下、前半5曲と「愛なき世界」について語りしろしかなかったのでメモメモ🗒
1.ヘイヘイ
まず曲のタイトル、「ヘイヘイ」とはなんなんだろう。Neil Young の 「My My, Hey Hey」 だろうか。青い血でも引用されていた。リスナー少し煽るような期待してしまうタイトルに応えるように力強いビートで始まる。うれしいよね
途中のセブンスを使った気怠いコード進行がミスチル、GRAPEVINEといったJ-ROCKのオルタナティブな側面を感じさせてくる。今作、全体を通してスケール感の大きさやメロディの表現の豊かさにミスチルを感じたりした。表題曲「Bee and The Whales」のコードの表現豊かな感じとか、「君の季節」で使われるディミニッシュの叙情感とか、今までになかった気がする。
2.死んでくれ
日陰者の依存的な愛、イケてない自分から離れないでくれ、という尾崎雄貴の歌詞表現における愛着パターンが炸裂した一曲。
「死んでくれ」という振り切ったタイトル、強烈ないじけ感も含めて最高に尾崎雄貴を感じるし、イントロのギターの絡み合いや「パイロットガール」的なインディビートからも、この曲で「Galileo Galilei が新譜を出したんだ…..!涙 」という気持ちが一気に高まった。
スネアの音色は808スネア的だったり、シンセが一気に出てくるところとかも今までにないボキャブラリーで、サウンドのアップデートが感じられる。新旧ガリレオ全部盛りって感じで最高なのである。
「弾けないギター握って」に綺麗に曲のピークが来てすごく気持ち良い。
大胆に2回目のBメロ持ってくる感じとかが、今作で一番曲の構造がthe 1975っぽいなと思った。
今作の中でthe 1975が言及されることは多いと思うが、個人的に一番の影響ポイントは曲の構造の意識と、ビートの強度だと思う。(そしてイントロにフワーっとした音入れるところとかも)
結果として歌メロとビートが高い次元で混ざり合って、the 1975的なクオリティに仕上がっている気がする。
あと「あそぼ」を聴いていると「ぼくらはやめない ぜったいやめない!」をインサートしたくなる…..such chocolate vibes…..
MVあったの知らなかった….。ハンドカムで撮ったホームビデオみたいな雰囲気だけど、楽しそうでとてもよい。アウトロには録音に入ってないサックスの音が入っている。北海道公演のリハーサルで一発撮影しようみたいなノリで撮ったのかな?
3. 色彩
アジカンっぽいオクターブ奏法のギターソロに、ドラムのフレーズはアップデートされたポップロックの感じ。そして歌詞はこれまた尾崎雄貴っぽい、「鳥と鳥」的なやや卑屈、かつさわやかさもある雰囲気の歌詞。タイアップつきそうな感じだけどなし(今作一曲もタイアップなくて、コマーシャルな雰囲気ないのがグッド)
アルバムの中で聴くと先行リリースで聴いた時よりいい感じに聞こえる。「恋の寿命」と同じパターン。ってか恋の寿命の「愛の証明」って単語とかも、めっちゃ尾崎雄貴っぽいよね。
4. ノーキャスト
Everybody wants to rule the world 的なシャッフルビート、ドラムやシンセの音色もばっちり80sオマージュな感じで、イントロからブチ上がる曲。
途中の「ヘーイ!」みたいなのもかわいい。今までのカバーのレパートリーからも手札を出してきている感じが最高。
5. ピーターへ愛を込めて
本作のインスパイアとしてthe 1975と並んで言及されるであろう、Poter Robinsonへのリスペクトから「ピーター」ともじってタイトルをつけているのかな?と邪推した
ビートは今までのリリースからだとBBHFの「Torch」や、warbearの「オフィーリア」が、ビートとアンサンブルに凝っていて近いイメージ。バスドラの位置が洗練されているのと、途中から差し込んでくるフィルターカットされたドラム音がかっこよい。Frail state of mind的な
(よく聞くと別の音色じゃなくて、同じキットでスネア増やしてるだけっぽい?)
最後のバースではサビが4回繰り返されてピークに入るのだけど、最初聴いた時は何が起こったんだ?みたいな感じだった。繰り返し聴くたびにかっこいいなーと、しみじみ喰らった。このアルバムで一番聴いてる曲。
歌詞も好きで、サビの中で「丁寧に慈(いつく)すんだ」と言っているように聞こえるけど、歌詞には「丁寧に包んだ」と書いている。個人的には慈(いつく)すんだ、みたいな通常の語用から外れる野心的な歌詞が好きなので、前者であってほしいなと思ったりする。(何回も聞いていて普通に聞き間違いかと思っているけど)
今作の他の曲もだけど、歌詞全体で読むとまとまりがそこまでなくて、歌の中で映える言葉を選んでいる感じがする。サビの頭とか、リフレインする言葉だけ印象強めの言葉にしているのとか、マシューヒーリーっぽいって思うけどどうなんだろ
あと女性コーラスは最初Aimer氏が引き続き参加したのかなと思ったけれど、調べるとLAUSBUBの髙橋芽衣さんが参加しているとのことだった。フックアップとしてイケてるし、なんでこんなハスキーな女性コーラスを見つけてくるのがうまいんだ…..と思う。
10. 愛なき世界
タイトルからくるりかな?と思ったら想像以上にくるり愛が炸裂した歌詞だった…笑
BIRTHDAYや男の子と女の子のカバーとかはしてたし、リスペクトがあるのは知っていたけど、好きなんだなーと微笑ましくなった。
本作はわりと直接的に元ネタに触れるような歌詞ネタが多い気がする。「ヘイヘイ」の「バースデイパーティーで歌うだろう」とか、愛なき世界でも「夏空」に自己言及したりしてるし、やはり現時点での集大成的な側面を感じる。
TEAM ROCK、ばらの花、ワールズエンドスーパーノヴァ、東京、赤い電車…… いくつくらい散りばめられてるんだろう。歌詞の雰囲気はハイウェイっぽいし。
この曲のリフでフルートが使われていて(これってフレーズも何かのサンプリングなのかな?)、「ヘイヘイ」でもサンプリング的にフルートの音が出てきたり、「ファーザー」でも使われてたりして、結構気に入ってるんだなと感じる。いいよね
「ヘイヘイ」のフルートの音はPSGの「寝れない!」を思い出したりした。
余談
そういえば今作はリリース前のインスタのプロモーションの方法もめっちゃよかった。トラックだけを一部切り取ってリールにしていたのだけど、どれもすごくよかったので期待値がかなり高まっていて、しかもリリースされた音源は期待値を超える出来だったので、もうリスナー体験として満点億点だったのである。アートワークもかっこいいし。
そんな感じの「Bee and The Whales」、ツアーでどういうアレンジするのか楽しみすぎるし、過去曲聞けるのも楽しみすぎるし、とにかくライブが楽しみなのです。福岡公演行く人は共に号泣してください。
追記
アルバムに関するインタビューが目に入ってこないのでふと「Bee and The Whales インタビュー」と調べたら、以下の記事が出てきた。どっちのインタビューも別の視点、切り口から話を広げていておもしろいし、インタビュアーの個人的なエピソードも入ってきて熱量高めで、めっちゃよい話をしているなと思った。
▼人生の輝きも苦悩も余さず描くーーGalileo Galileiの始動を告げるニューアルバム『Bee and The Whales』インタビュー | SPICE - エンタメ特化型情報メディア スパイス
ジャケットの油絵、メンバーが書いてるのか……..音楽制作のアプローチとして油絵描くのよいなぁ。比喩じゃなく、一枚の絵を描くということをやっている。(別のインタビューで一枚の絵を描くことについて尾崎くんが話していた記憶がある)
「休止前のオリジナルアルバム『Sea and The Darkness』とは海に対する感覚が違いますね」とかインタビューの切り返しとして最高すぎる。
「汐」がより好きになったな。
▼Galileo Galileiとして精一杯生きてやる。尾崎雄貴と岩井郁人が語る音楽の喜び、7年ぶりの新作『Bee and The Whales』 | Mikiki
各パートのメンバーが別のパートを演奏して、テイクがよかったら採用するという発想ができるのはバンドとして理想の状態だなーと思う。これが冒頭に書いた風通しの良さを感じたことにつながってるのかも。
どちらも「Bee and The Whales」のエレピはFrank Oceanの雰囲気がある点に言及していて、わかるーとなった。そこからの歪んだオルガンは確かにKanye Westやなとなった。そこからのメロディとの拡げ方はサイコウだよね。
「オレンジの汚れた車で君を送るよ」とかもnostalgia ultraのジャケットのイメージなのかなと思ってみたり……
対談した相手(多分後半のインタビューで触れられてるセッションした相手?)は誰なんだろう気になる。公開がたのしみ
尾崎兄の家族について言及している箇所、初めて知った。また少しこのアルバムの響き方が変わりそう。
この感想を書いたときはアルバム前半の方に集中して聴いていたけど、今は自然と後半群の曲たちが響くようになってきた。まだまだこのアルバムは楽しみしろがありそうだ….。
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