【幻想一品】ありがたがろうインゴット
こんにちは、同好の友人たち!
幻想一品シリーズ、今回のテーマは金属の塊、インゴットだ。
どうぞよろしく頼む!
その鉄製品、“いくら”なりや
今回のテーマは金属の塊、インゴットだ。
クラフト要素のあるゲームやルパン三世のターゲットとして定着しているこの存在だが、どのようにして、いつごろから使われているか考えたことはあるだろうか。
今回はこのインゴットからスタートして、ファンタジー世界の装備に多く使用される金属について考え、彼ら冒険者が自身の装備に対して抱いている気持ちの側面を探っていこうと思う。
インゴットとは、工業生産がしやすいように金属から不純物を抜いた素材の総称であり、その歴史は紀元前3000年にもさかのぼる。メソポタミア文明あたりを想像してくれ。
不純物が多く含まれている鉄鉱石や銅鉱石から金属だけを取り出し、金属製品は作られるが、その過程の間に輸送しやすい、加工を始めやすい素材として発案されたのがインゴットだ。
採掘された鉱石は、炉で高温に熱したり叩いたりして純度を上げ、インゴットに形成される。その後職人のもとに届けられ、お鍋や馬蹄、剣や兜に成形されるわけだ。
こうすることによって、かさばることなく効率的に生産拠点を配置することができるのである。また、加工技術の流出₍特に硬貨など₎を防ぐことにも一役買っているだろう。
1,500℃の壁
今回は鉄をメインに語っていこうと思う。
銅や青銅の武器や防具は古代から作られてきたが、これらは非常にもろく、実際には使えたものではなかった。
実際の耐久力を期待して冒険者が装備すべき金属はやはり鉄、乃至はそれ以上の硬度を誇る金属だろう。
鉄鉱石から鉄を取り出すには、熱を与え、炭素などの不純物を取り出してやる必要がある。最も簡単な方法は鉄成分をどろどろに溶かし、浮かんできた不純物を取り払ってやることだ。
しかしこれには問題があった。鉄の融点は1,500℃と非常に高く、人類がこの技術を広く使うことができるようになったのは14世紀のことだ。それまでの間人類は鉄の加工方法として『できるだけ熱くして、やや柔らかくなった塊をめちゃくちゃ叩く』という方法で鉄から不純物を取り除いていた。
良ければこの動画を見て欲しい。融点を超えることなく鉄を取り出す作業がいかに大変か、そして14世紀を迎えるまでの間、どれほどインゴットを作ることが大変だったか肌で感じられる。
歴史上の物価は現代以上に不安定で、ビックマックを使った物価計測もできないので計算しようがないが、冒険者たちの使用している金属がいかに貴重で高価な、手のかかるものだったかという事がいやというほどわかる。
仮に盗賊団の総大将としてプレートアーマーを着た大男が登場したとするならば、現代で言えば銀行強盗に戦車を持ち出してきたような衝撃を受けるにちがいない。その全身装甲を作り上げるのに一体どれほどの職人の手が加わり、市場でどれだけ高く取引されるかを考えれば、その実力もまたおのずと遥かなるものに感じることができるだろう。
溶鉱炉があるかどうかという選択
さて、是非ともここで考えて欲しいことは、君のファンタジー世界に溶鉱炉が存在するか選んでみよう、という部分だ。それによってインゴット、すなわち鉄を作る費用と時間は大幅に変動する。
1,500℃という温度は並大抵ではない。一方でファンタジー世界においては現実と異なり、その温度へ、あるいはもっと遥かなる高温へ手を届かせる方法がいくらでも想像できるだろう。
或いは、君の世界に14世紀前後、あるいはもっと先の現実文明があるケースもあり得るし、鉄以外の鉱物があり、それは鋼よりも強く銅よりも扱いやすい、これもまたありだ。
この時、君の世界には豊富な鉄が用意され、刀剣職人のトーナメントが開催され、貧乏冒険者でもせめて首当てぐらいは装備しようといったモラルが定着している可能性がある。
逆に1,500℃の壁を絞る₍到達できない、乃至はドワーフが占有しているなど₎ならば武器や防具の値段ははるかに高まり、鉄の防具を付けられるのは正規の兵士のそれも中堅から、倒した敵から奪うべきはコインよりも鎖帷子と粗製のアミュレット、川沿いを歩けばすぐに炭焼き場の煙が見つかるといった渋い世界を堪能できる。インゴットを運ぶ不自然に車体の沈んだ頑丈な馬車は、盗賊たちの格好の餌食となるだろう。
どちらの世界も実に味わい深いものだ。それに、どちらでも共通しているものは、きっと冒険者は彼らの装備を小遣いを貯めて買ったギター、ボーナスで買った腕時計、親父から受け継いだアンティークカーぐらいには愛しているだろうという点だ。
是非とも彼らの深い思いを頭の片隅にしまい冒険してみて欲しい。
きっとファンタジー世界の雰囲気がまたちょっと違うものに変わることだろう。
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