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【幻想一品】防具から考える幻想世界

こんにちは、同好の友人たち!

僕の名前はユーキ。
記事を初めて読む人は、まずはシリーズの導入にあたる『頭書き』に目を通してくれると嬉しい!

今回のテーマは『防具から見る幻想世界』だ、早速始めよう!

奴はなぜその鎧を身に着けるのか

ファンタジー世界をより近づいて眺めるきっかけは、それこそ現実の物の数だけ存在する。どれから手を付けるか、実に悩んだ。

そんな中、今回から4回程度の記事に分けて、冒険者や対する巨悪、あるいは不幸な第一被害者の衛兵のビジュアルに大きく影響する『防具』について考えていきたい。理由はもちろんかっこいい、どんなシーンでも脚光が当たるという部分があるが、もう一つ、周辺環境を想像しやすいという事情がある。

まずは防具を眺める『アプローチ』について、その後『兜』『鎧』そして『はきもの』についてそれぞれ書いていくよ!

異邦で防具を選ぶ

実際に戦士が身に着ける甲冑の外観は、いくつかの要素によって左右された。まずはどのような素材が手に入るか。次に加工技術のレベル。最後は、その時代の戦術が生まれる元となった武器だ。

『世界の甲冑・武具歴史図鑑(初版)』原書房

防具とはつまり、何かの攻撃から身を守るための装備だ。原初の時代なら、主に危険な野生動物や自然環境から身を守るために用意された。歴史的に僕たちが見ることのできる古代文明から現代までの防具は、自然以上に脅威の中心となった武装した人間からの脅威を想定して作成されている。

具体的に脅威を定義するなら、その時代に中核となった軍隊による組織的攻撃への防御策が歴史上の記録や証拠として現代へ残されている。概ねどの時代においても数十人から数千人の歩兵部隊は、最大の脅威であり、敵歩兵部隊がくり出す戦術と装備を想定して、戦士たちの防具は量産発注、製造、配布されてきた。

では、当時の重装歩兵の装備がファンタジー世界の戦士における最強かつ最適な衣装となるのか。そうではない。

ファンタジー世界の戦士、特に冒険者のような極めて少人数の集団に求められる戦闘や危険のシチュエーションは非常に幅広い。さらにこの世界では敵が自分と同じ180㎝前後の二本腕で武器を振るう存在とは限らない。相手は火を吹くかもしれないし、目を見たら石に変えられるかもしれない。空を飛ぶやつは珍しくもないし、山のように大きなやつが君めがけて建物の一部を投げつけてくることもあるだろう。

よって彼らは、彼らが知りうるそれら全てに備えている。だからこそ『彼』が『なぜ』その防具を選んだのか、そこに創造の面白味が詰め込まれている。

歴史的な戦士の中でも多種多様なシチュエーションへ対応可能な部隊は存在する。
彼らは専業の戦士として特訓を受けたプロフェッショナルであり、幻想世界の戦士のような臨機応変な活躍が期待されている。

剣は実用的か?

鎖帷子(くさりかたびら)を刃で切り刻むことはできない。この事実を知ったときの衝撃は計り知れないものがあった。刀剣といったものを見慣れない僕ら現代人にとって、振るわれる刃による暴力は魔法と同じぐらいイメージが難しい。それでも創作作品の多くで登場する様々な描写について、戸惑いを感じる機会は多いのではないだろうか?

世界では数多くの武器に関する実験、検証が進められているが、21世紀に入り英国王立武具博物館から興味深い調査結果が報告された。曰く『中世のほとんどの武器で鎖帷子を貫くことは、ほぼ不可能である』との結果だ。例外はレイピアのような刺突専用の剣や鋭い槍、鋭い刃を付けた矢に留まる。驚くべきことに斬撃はおろか、刺突攻撃でさえ、鎖帷子に守られた部分を切り落とすことは難しい。

頭巾のようにかぶり、腕まで守っている鎖が
鎖帷子である。
確かに刃物で切れる代物とは想像しづらい。

では鎖帷子が比較的新しい防衛手段であったかというとそうではない。その歴史は古く、紀元前のガリア地域で発明され、徐々に生産方法と強度を見直されながら世界中に伝播しているのだ。鉄のリングを一つ一つを編み込む鎖帷子は確かに人手を要するが、共和制ローマでは予備兵にも配分されており、一般的といえる防具だった。決して王侯貴族だけが装備できる代物とは言えない

困った、剣の優位性が見えてこない。。。

派手な大剣への実用性は多少あきらめていたが、この情報には実にげんなりした。なんだか憧れの英雄たちに親近感を抱くどころか、近すぎて急激に弱くなってしまったように感じる。

それでは一体僕らが恋焦がれる『剣の世界』とは何なのか。冒険者達が相手する敵は、普通に考えれば剣を無効化する鎖帷子を着ているはずではないのか?それなら剣は有効と言える武器ではなく、大活躍する英雄譚の騎士像はイメージに過ぎないのか?

長槍(パイク兵)に挑む両手剣を持った兵士(ランツクネヒト)
彼らは強力で勇敢だったが、
リーチの違いから戦死率が非常に高かった。
幻想世界で戦士に求められる活躍とは
大きく異なる活躍だろう。

結論から言えばそのようなことはない。
剣を持って大活躍する戦士は存在した。
考察の肝は "状況" だ。

ローマの兵士は短剣グラディウスを装備していたし、多くの時代で日本刀は実際の武器として使用されていた。大事な部分は戦士を取り巻く環境が向かい合った戦場だけとは限らない点だ。

共和制以降のローマ兵は支配地域を広げる中で、時にはジャングルで、時には霧の中の野営地で、時には征服地の酒場でその実力を試される機会があった。当時も槍を持った重装歩兵は平地において強力であったが、それはあくまで集団で防具で身を固めた敵に対し広い場所で戦うことにおいてである。

どんな場所で襲われるかわからない戦士にとっては、取り回しがきく刀剣は何よりも頼りになる武器だった。また、植物に覆われた土地を切り開くのにも、テントのロープを程よく切りそろえるのにも、周囲を威嚇し無用な争いを避けるためにも、鋭く研がれた剣は役に立った。常に危険や障害と隣り合わせのファンタジー世界において、これらのシチュエーションに出会う事態は数多く存在するだろう。

そのように多様な状況を考えれば、必ずしも敵が防具を完全に着込める状況であるとはとても言えないのだ。

13世紀頃から使用されるロングソード。
馬上徒歩両方で、多様な戦いに対応する為の
発明品だった。
前述の通り重装歩兵を切ることはできないが、
それらには正確な突きで対応し、
軽装兵には上段から思い切り袈裟斬りにした。

主人公たる冒険者たちも、対応するように、時として鎖帷子を捨てるべきシチュエーションも用意されている。例えば隠密行動が必要な場所で、例えば武装が禁止された地域で、長期間の移動で常に着用していれば、直ぐに襟元が錆び始め、深刻な病気になるかも知れない。いとも簡単に鎖帷子を貫通する牙を持つ大猪と対峙するならば、少しでも身軽にして活路を見出すのが賢明だ。

つまりすべて状況による。彼が何を想定し、何に備えているのか、恐れているのはなにか、その答えが幻想世界の住人もつ武器防具から見えてくる。

そう考えていくと、アイデアと設定の広がりにワクワク、ドキドキしてくる。

大柄なオークでも胴体への斬撃は致命傷になりうる。(恐らくは)彼用に仕立てられていない鎧は多少の不快感と引き換えに、戦場では大きな支えになるだろう。
(それにしても随分きれいだ。彼の不幸な子分は樽に小石と水、鎖帷子を入れ、手がクタクタになるまで丸洗いに勤しんでいるに違いない。)

最後に

長くなってしまったが、僕の考える防具から見る幻想世界へのアプローチは『何に備えているか』がテーマになる。

次回以降はそれぞれの防具や装備について、現実から幻想へ想いを馳せていこう。

それでは、また次回!
よき旅を!!


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