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「オッサンの放物線」 #11えべっさん

~連続しょうもな小説~
「オッサンの放物線」 第十一話 えべっさん

2023年1月10日

私の仕事は正月は毎年元旦くらいしか休みがないので、家族で初詣は行かない。
その代わりに1月9日から11日のどれかで恵比寿大祭に行く。
しかし何度も言うが、子供達が大きくなった為そういう年一回のイベントにも全員揃うことは無くなって来た。
寂しい気持ちも少しはあるが、これは自然な流れであるし、成長であるし、何より全員で移動するのがそろそろしんどい。

何年か前までは、西宮の恵比寿神社まで行っていたのだが、人が多く電車移動もしんどくて。
まあ、とにかくしんどいのだ。オジサンは
…。
ここ数年は近場の天神さんへ行くことにしている。
出店や餅撒きなど、十分雰囲気は味わえる。
今年は妻と二人で行くのだろうと思っていたが、珍しく末っ子が着いてくると言う。

今日は10日なので、「本恵比寿」であるが、昨日が祝日で来た時間も昼過ぎだったので空いている。
とてもスムーズに参拝できた。
夜には餅撒きをするステージに二人の「えべっさん」がいて一緒に記念写真を撮ってくれる。
子供を誘ったが一撃で断られ、一人で写真を撮ってもらった。
私は、こういうのは「やるタイプ」だ。
えべっさんがくれた「めで鯛シール」をスマホに貼った。
嬉しい。

本殿を参拝して去年の笹を返して、今年受験の末っ子に熊手を買わせた。
買った人は巫女さんに鈴をシャラシャラ鳴らしてもらえる。
私はその光景をスマホで録画したが、もちろんピントは巫女さんに合っていた。
ケケケ。

昼御飯を食べて来たので、あまり出店で何か食べようという気分にはならなかったが、妻と息子が「たこせん」を食べたいというので買いに行かせた。
「たこせん」とは関西だけのものなんだろうか?
大きなエビせんに(タコちゃうんかい)ソースと揚げ玉、マヨネーズかけて目玉焼きが乗ったおやつ。

買いに行った二人の後ろ姿見ながら、「やっぱ自分も買ったら良かったかな。」とか思っていた時。
前方から怪しい影が猛スピードでこちらに近づいてくるではないか!
「なんや。アレ。」
もし「ツチノコ」ってヘビが本当にいたら、きっとこんな形だろう。
ズンドウで、黒くて、頭は三角で、絶対毒持ってる感じの顔したヘビが私の目の前で。
跳んだ…。

笛の音が聞こえる…。

ピ~ロピ~ロ、ピ~ロピロ。
ピ~ロピ~ロ、ピ~ロピロ。
「あ商売繁昌で笹持って来い。」
「あ商売繁昌で笹持って来い。」

私の周りを一人の「えべっさん」が打出の小槌振りながら踊って回っている。

ピ~ロピ~ロ、ピ~ロピロ。
ピ~ロピ~ロ、ピ~ロピロ。
「あ商売繁昌で笹持って来い。」
「あ商売繁昌で笹持って来い。」
…。

あの…。
既に咬まれましたけど…。
私の額にはガッチリとツチノコが噛みついている。
あの…。
すいません。何も助かってないんですけど…。

しかし、次の瞬間。
なんとツチノコは500円硬貨になって、私の手のひらに落ちてきたのだ!

ピ~ロピ~ロ、ピ~ロピロ。
ピ~ロピ~ロ、ピ~ロピロ。
「あ商売繁昌で笹持って来い。」
「あ商売繁昌で笹持って来い。」

笛の音を私の耳の奥に残して、えべっさんはどこかへ消えてしまった。

なんか。
お年玉もらったわ…。
ツチノコに噛まれた額を触ってみた。
少しヘコんでいる様だが、血は出ていない。
たこせんを噛りながら戻って来た二人に、500円握りしめて言った。
「何か飲むもん買う?」

つづく