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「オッサンの放物線」 #12招かざる客

~連続しょうもな小説~
「オッサンの放物線」 第十二話 招かざる客

2023年1月9日

今日は成人の日だ。
私は車通勤なので見れないが、電車や街には晴れ着姿の若者達が沢山いることだろう。
そして私の長男もスーツ姿でバイトの仲間達と成人式へ行くらしい。
大学の入学式前にちょうど国からの給付金が出たので、息子のスーツと礼服を買う事ができた。給付金については賛否両論あったようだが、タイミング的にウチには有り難かったのだ。

仕事を終えて、夜家に帰ると息子はもう帰っていた。
えらい大人しいんやな。でもまあ、このご時世どんちゃん騒ぎも無かろう。
若者達には可哀想な時代ではある。

私の成人式の時。
たしか、あの頃は成人の日は1月15日と決まってなかったか。
中学の同級生たちと公園で集合した。みんなダサいパリッパリのスーツを着ていた。
一応成人式の会場には向かったが、式典には参加せず写真だけ撮って飲みに行ってしまった。はっきりとは憶えていないが、当時流行っていた屋台村だったと思う。立ち飲みできるテーブルだけ置いてあって、あとは好きな店で酒とつまみを買ってきて飲むスタイルだ。昼間っから夜遅くまで飲んだ。
どういう経緯か全く記憶にないが、多国籍の集団が僕たちのグループと合流し飲めや歌えの大騒ぎ。私の掛け声でその辺にいるナニ人か解らない人達が何回も何回も乾杯した。
もちろん、次の日は二日酔いで起き上がることも出来ずに一日中寝て過ごした。
その翌日、1月17日午前5時46分。
2階で寝ていた私は床ごと1階まで叩きつけられる様な衝撃で目覚めた。
「何これ⁉地震?」
同じ部屋に寝ている父に言うと「違う!家が潰れたんや!」と言う。
確かにウチの実家はボロかったが、さすがにソレはないだろうと思っていると。
もう一度、今度は激しい横揺れが来た。父は、もう大人になった私の頭を守るように覆いかぶさった。
暫くして私は倒れたタンスを2つ越えて、自分がまだ2階にいることを確かめるためにベランダの窓を開けた。
遠い空が赤く燃えていた。
あれから、もう28年も経ったんだ。

このような時代でも集団でどんちゃん騒ぎする人はするだろうし、ウチの息子は自分に似ずに真面目なんだろうなと思う。
しかしそんな真面目な息子も、エライもんを連れて帰って来たようだ。
三日後に発熱したのだ。

家にあった抗原キットで検査したら陰性。熱の出かたからインフルエンザかなと思っていた。一気に39℃台まで上がり嘔吐していた。
翌日の朝、息子から病院で検査したらコロナ陽性だったと連絡が入り、私はそのまま帰宅。
濃厚接触者のため自宅待機となる。
その3日後、次男が陽性。
その次男を車で病院へ連れて行った私も、そのまた三日後発熱した。
39.1℃。
数字以上にしんどい。喉が痛い。鼻水、咳が止まらない。悪寒と熱さが交互に来る。身体がだるい。苦しい。あ〜しんど。

2023年1月20日

ベッドで横になってフーフー言っていると、足元に座ったルカがトントンと優しく私の布団を叩く。
「没事了 很快就会好的」(大丈夫。すぐ良くなるわ。)
「谢谢你」(ありがとう。)
腹がゴロゴロ言う。
「ぷぅ〜。」
屁が出た。
ルカの口から。(何回このネタ使うねん)
「对不起」(ごめんなさい。)
「没关系」(大丈夫よ。)
いつになく優しい。

笛の音が聞こえる。
ピ~ロピ~ロ、ピ~ロピロ。
ピ~ロピ~ロ、ピ~ロピロ。
「あ商売繁昌で笹持って来い。」
「あ商売繁昌で…。」
「あの。すいません。静かにしてもらえませんか?」
えべっさんは部屋の隅っこで、体育座りをした。
チャリン…。私の頭元に五円玉が落ちた。
「なんか…。すいません。」

ぬるくなった額のタオルを蜘蛛男が冷たく絞って替えてくれる。
「ありがとう…。あーにゃん。」
あーにゃんというのは私が蜘蛛男につけた名前だ。
「スパイ・ダー」で掛けている。
ケケケ。

しかし…。
この部屋、四畳半なんですけど…。
思いっきり「密」やねんけど。
妖怪には伝染らんのやろか…。
あああああ。さむ!
また寒気きた。
「ハッ…。ハッ…。ハックショーイ!!!」
鼻からシロクマが飛び出し、その場全員がひっくり返った。


つづく。