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令和7年予備試験憲法

【問題文】
20XX年、歴史的に差別を受けてきたとされる地区の所在地をインターネットに書き込む行為が相次ぎ、そのことをきっかけに、当該地区に住む者たちに対する不当な差別が横行した。
 そのような状況の下で、当該地区の居住者のプライバシー保護及び居住者に対する差別防止を目的として、インターネット上の表現を制限する立法が行われることとなった。
 具体的には、「歴史的に差別を受けてきたとされる地区の所在地の特定を著しく容易にする表現」を「特定差別表現」とした上で、SNS事業者(国内の利用登録者数が200万人を超える事業者に限定)が特定差別表現があることを知ったときは、知ったときから24時間以内に当該表現を削除しなければならない。24時間以内の削除に応じない場合には、SNS事業者は100万円以下の罰金が課される。
 以上のような立法による表現の制限について、その憲法適合性を論じなさい。

【出題趣旨】
 本年の問題は、インターネット上の差別を助長する表現の規制の可否を問うものである。古典的な内容規制であると同時に、拡散性というSNSの性質に着目した規制でもある。
 まずは、「特定差別表現」が表現の自由の保障を受けるか、保障を受けるとして保障の程度がどれくらい高いかを論じる必要がある。差別につながるという問題点だけでなく、学術的に意義のある表現も「特定差別表現」に含まれることにも留意が必要である。また、規制によって直接制約されるのはSNS事業者の表現の自由であり、削除によって二次的に個々人の発信の自由が制約されているという構図を正確にとらえる必要がある。
 次に、プライバシー(及び差別されない権利)と表現の自由が衝突していることを踏まえた適切な判断枠組みを定立する必要がある。定型的な違憲審査基準論を論じても評価されず、憲法上の権利が衝突していることを意識した衡量を行っていく必要がある。
 規制の合憲性については、①罰則を伴う削除の強制という強力な規制であること、②24時間という短時間のうちに削除を義務付けられること、③段階的規制になっておらず、削除義務に違反した場合に直ちに処罰されること、などが問題となる。その際には、短時間で急速に拡散されるおそれがあるというSNSの特殊性や、不当な差別という被害の重大性を踏まえた議論が必要である。また、SNS事業者による私的検閲のおそれについて論じることも考えられる。
 さらに、「歴史的に差別を受けてきたとされる地区の所在地の特定を著しく容易にする表現」という基準が、表現の自由を規制する法令の定めとして、あるいは、刑罰法規の構成要件の一部を定めるものとして、不明確に過ぎないかも検討しなければならない。




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