まずは侮辱か名誉棄損かを整理しよう~発信者情報開示請求をする前に~
誹謗中傷は、侮辱(名誉感情侵害)か名誉棄損(名誉権侵害)のふたつに分けられます。
・侮辱(名誉感情侵害)
受忍限度を超える侮辱的投稿。返信で書かれているもしくは名指しされているなど、客観的に見て自分のアカウントを指しているとわかることが必要です(特定可能性といいます)。
例えば「埼玉県民はださいたま」とだけ書いてある投稿を見て、「埼玉県民である自分に対する侮辱である」と主張しても、特定可能性がないため認められません。
(例)ゆっくりドットコム死ね!
侮辱と認定される可能性がある言葉としては「キチガイ」「ガイジ」「子育てに失敗した」などです(明らかに侮辱を目的として「障害者」と投稿した場合も侮辱と認定されます)。
また、「馬鹿」「ブス」「ハゲ」等はそれだけでは受忍限度を超えるとまでは言えませんが、投稿が長期間に渡り繰り返されている場合は受忍限度を超えるものとして侮辱と認定される可能性があります。
・名誉棄損(名誉権侵害)
社会的評価を低下させるような投稿。特定可能性だけでなく、アカウントやハンドルネームの中の人がリアル社会の○○さんだと一定程度知られていることが必要です(同定可能性といいます)。
(例)ゆっくりドットコムはコンビニで万引きする泥棒だ。(「コンビニで万引きする」という事実を摘示した上で「泥棒」呼ばわりし、社会的評価を低下させるものなので、事実摘示型名誉権侵害といいます)
(例)ゆっくりドットコムは手癖が悪い。(事実の摘示はなくとも「手癖が悪い」と指摘されることで社会的評価を低下させるものなので、意見論評型名誉権侵害といいます)
名誉棄損と認定される可能性がある言葉は「詐欺師」「泥棒」などです。
また、侮辱も名誉棄損も「公然と」行われたことを要件とするため、原則、SNSや掲示板に公開状態で「投稿」されたものでなければなりません。
ただし、非公開アカウントの投稿について、投稿者のフォロワー数が500人程度あったことから、裁判所が「伝搬可能性があった」と判断した裁判例があります。
表にまとめると以下のとおりです。
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いずれかに該当すると判断した場合は、発信者情報開示命令申立書(Xにおいては仮処分命令申立書)を作成しましょう。