エルミート行列の固有値など
$${A}$$はエルミート行列とする.すなわち,$${A}$$は$${A^{*}=A}$$を満たすとする.
固有値は実数
このとき,$${A}$$の固有値は実数であることを示そう.
$${\lambda}$$を$${A}$$の固有値とし,$${\bm{x}}$$を$${\lambda}$$に対する固有ベクトルとする.$${A\bm{x}=\lambda\bm{x}}$$を満たすから,次の式変形をする.$${\bm{a}, \bm{b}\in \mathbb{C}^{n}}$$に対し,$${\langle \bm{a},\bm{b} \rangle:=\bm{a}^{*}\bm{b}}$$をエルミート内積とする.
$$
\lambda \langle \bm{x}, \bm{x} \rangle=\langle \bm{x}, \lambda\bm{x} \rangle=\langle \bm{x}, A\bm{x} \rangle=\langle A^{*}\bm{x}, \bm{x} \rangle=\langle A\bm{x}, \bm{x} \rangle=\langle \lambda\bm{x}, \bm{x} \rangle=\lambda^{*}\langle \bm{x}, \bm{x} \rangle
$$
となるから,$${(\lambda-\lambda^{*})\langle \bm{x}, \bm{x}\rangle=0}$$となる.$${\bm{x}\neq \bm{0}}$$は固有ベクトルであり,内積の非退化性から,$${\langle \bm{x}, \bm{x}\rangle\neq 0}$$となり,これで両辺を割ると,$${\lambda-\lambda^{*}=0}$$を得る.故に,$${\lambda=\lambda^{*}}$$となる.
問題
他にも,「ユニタリ行列で対角化可能である」という性質があるが,ここでは置いておいて,次の問題を見てみることにする.
少し考えて,次の補題を示せばよいことが分かる.任意の$${l\in \mathbb{N}}$$に対し,$${A^{2^{l}}\bm{x}=\bm{0}}$$ならば,$${A^{2^{l-1}}\bm{x}=\bm{0}}$$となることを示す.
$$
\langle A^{2^{l-1}}\bm{x}, A^{2^{l-1}}\bm{x}\rangle=\langle \bm{x}, (A^{2^{l-1}})^{*}A^{2^{l-1}}\bm{x}\rangle=\langle \bm{x}, A^{2^{l}}\bm{x}\rangle=\langle \bm{x}, \bm{0}\rangle=0
$$
となる.内積の非退化性から,$${A^{2^{l-1}}\bm{x}=\bm{0}}$$となる.
仮定から,ある$${\ell\in \mathbb{N}}$$が存在して,$${2^{\ell}>k}$$となるから,$${A^{2^{\ell}}\bm{x}=A^{2^{\ell}-k}A^{k}\bm{x}=A^{2^{\ell}-k}\bm{0}=\bm{0}}$$となる.上の補題を繰り返し用いると,$${A\bm{x}=\bm{0}}$$が示される.これは,$${A}$$が$${0}$$固有値を持つこと示している.
簡単な事実であるが,少し不思議である.