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「編集者」と「NPO」について。

「大島さんは経営者ですよね」といわれると、いまだに落ち着かないです。ですが「編集者」として、団体を「編集した」感覚はあります。実際に編集者だったのは2007年までですが、未だに「自分は編集者」という気持ちがあります。

この記事の目的は2つ。

・僕より後から生まれた人たちに、「編集」の面白さと可能性を伝えたい。
・今、きずなメール ・プロジェクトで働く人たちに、自分たちがどんな文脈(コンテクスト)の上にいるかを知ってもらいたい。

①どういう本の編集者だったか。

「編集者」は「書籍編集者」(不定期刊行)と「雑誌編集者」(定期刊行)に大別できます(僕が現役だった頃は)。僕は「雑誌」の、しかも「競馬専門の月刊誌」という超ニッチな媒体の編集者として、30代を過ごしました(いわゆる「競馬新聞」とは異なります)。

媒体の名前は「競馬最強の法則」です。

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(1991年創刊→2019年休刊。28年続いた。)

競馬最強の法則 - Wikipedia

この本のMissionは、「競馬で儲ける方法(「馬券術」といいます)」を紹介すること。だから編集者は毎週(競馬の開催は基本土日)、競馬をやります。自分のお金で。

業務命令ではなく、そうするのです。編集部には、「自分の身銭で試した馬券術を企画にするのが、この編集部の編集者」という無言の圧力がありました。今風にいうと、ユーザーファーストを貫くため、「当事者」あることに重きを置いていたのです。

例えば、自分で1万円投資して10万円になった馬券術を記事にするので、迫力が出ます。おかげで同誌は、「競馬月刊誌」というニッチな市場でトップリーダーでした。僕もそのことを誇りに感じるとともに、鼻にも掛けていた恥ずかしい過去でもあります。

週末に自分のお金でギャンブルをやることが「仕事」など、今なら確実に問題アリですが、僕は水が合ったようで、本当に毎週競馬ばかりしていました。

②「編集」とは?

僕はこの編集部で、「編集」の多くのことを学びました。「編集」の定義は人により様々ですが、僕とっては、「締め切りまでに、とにかく形にする」ことです。

何かを作るとき、ベストの条件や環境がそろうことはありません。必ず制約条件があります。予算と締め切りがその代表。手持ちの材料で締め切りまでに、いかに面白いものを作るか。

後にこの考え方は、文化人類学でいう「ブリコラージュ」(寄せ集めて自分で作る)に近いものだと知りました。

ヒット企画(記事)が生まれるプロセスは、不合理で不条理です。丁寧に仕込めばよい企画になるのは確かですが、時間かけて準備したけどまったく響かないとか、苦し紛れに3分で考えたような企画が売れたり、つまらなそうな企画が編集長がキャッチコピーを変えるだけで大化けしたり。謎に満ちています。

「面白いものは、制約の中で生まれてくる」ことを体感する日々でした。

③編集したら「きずなメール ・プロジェクト」になった。

起業を考えた2010年時の手持ちの材料は、妻が書いてくれた「胎児の成長を毎日紹介した原稿」のみ。予算ゼロ。締め切りは「貯金が尽きるまで」。

編集者は、「切り口」という考え方をします。同じトマトでも、タテに切るかヨコに切るかで見え方が変わります。僕は妻の妊娠を知ったとき、いつもの見慣れた風景の、見え方が変わりました。親という「切り口」に、突然晒されたからです。

晒されてすぐに、親は子育ての「当事者」だと気付きました。「当事者」として「編集」することに、多少の慣れはあります。

次に探したのが、僕ら家族も含めた”社会全体”に役立つ「切り口」。そして出会ったのが↓この本の中の「社会起業」と「NPO」でした。

「社会を変える」を仕事にする ― 社会起業家という生き方

「胎児の成長を毎日紹介した原稿」「子育ての当事者」「社会起業」「NPO」を編集したら、「NPO法人きずなメール ・プロジェクト」になった、という感じです。

④「編集」は「プラスサム」

この10年で、「編集者」も「編集」も大きく変わりました。

note の加藤貞顕さん。コルクの佐渡島庸平さん、wordsの竹村俊助さん。僕より後に生まれた方々が、10年前には想像もつかなかった形で、webを軸にしながら、それぞれに凄い仕事をしておられる。圧倒されるばかりです。

僕はベストセラーを出した経験もない、そもそも業界の隅っこにいた、今や年齢的にも微妙な「おじさん編集者」ですが、それでも「自分は編集者」という気持ちはなくならない。

ここまで書いて、今頃になって、ようやく、自分が伝えたいことが見えてきました。

ゲーム理論に「ゼロサム」「プラスサム」という考え方があります。誰かかが勝つと、誰かが負けるのが「ゼロサム」、両方勝つのが「プラスサム」。

「編集」では「プラスサム」が高確率で起こるのです。切り口を変えるだけで、奪い合う関係が、与えあう関係に変わることがある。これはとても面白いし、神秘です。イノベーションって、こういうことかと思います。

もうひとつ。悩んでいることがあってそれをどうにかしたい方は、自分でこっそり「編集者」になったことにして(笑)、その悩みをいろんな「切り口」で切ってみてください。欠乏感や不全感は、それ自体が「企画」になります。ひとりの人間の悩みごとは、社会全体、世界全体とつながっています。きずなメール ・プロジェクトが続いている限り、これは確信を持って言えます。

こんな感じで、少しでも役に立てれば幸いです。


http://kizunamail.hatenablog.com/entry/2020/09/07/170000  より転載


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