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『カササギ殺人事件』の読後感想を良くしようとする二次創作

1・ミステリというのは基本的にムナクソ悪い話だと私は思っている

ミステリとは、基本的にムナクソ悪い話だと私は思っている。

名探偵がどれだけ颯爽と謎を解いても、話の起こりは犯罪であり、どんな理由があっても「罪」の事実は消えないからだ。(もちろん犯罪が登場しないミステリもあるし、犯人が逃げ切って幸福になる作品もあるだろうけど、まあ、基本的な話と思っていただきたい)

そんな意味で、本作は非常にムナクソ悪い結末に徹した、素晴らしいミステリだと思う(褒めてます)。
作中のリアルと作中作の両方で殺人が起こるのだが、どちらの殺人も確実にムナクソ悪いので(褒めてます)、構成の上手さに舌を巻きつつも、二重にやるせない気分にさせてくれる。

そこで、この記事では二次創作的に作中のある部分を自分なりに書き換えて、ムナクソの悪さを薄めてしまおうと思う。
(本作は多数の賞を取り、既に多くの方が語っているので、いまさら普通の感想を書いても何の新しさもないだろうという考えもある)


※この行以降、ネタバレ全開です。本作を読んでいない人は読まないことをおすすめします。

2・この二次創作を、 『カササギ殺人事件』を紹介してくれた方に捧げる

私は本作を、読書イベント「本と、おしゃべりと、」で紹介されたことで手にした。
本作を紹介された方も、「読後感はあまり良くなかったけど、とても面白かった」という感想を口にされていたと思う。
そこで以下の結末を、本作を紹介された方に捧げたい。
(「結末を捧げる」ってミステリの冒頭にありそうな文章ですよね( ´∀` ))

3・ここからネタバレ全開の二次創作!

私が書き換えたいのは、チャールズがアランを殺害した理由を語る場面だ。(いきなり激しいネタバレ💦)
わざわざ書き換えるのは、こういう結末だったら、もう少し読後感が良かったんじゃないかな、と考えたから。

なにしろピュントの推理によってロバートの罪が明らかになった時(さらに激しいネタバレ💦)、恋人であるジョイが可哀そうすぎる( ;∀;)と私は涙した

ジョイはロバートとの暮らしを守るために、狭い村社会のタブーを超えて体を張って奮闘したのに、なんと悲しい結末であったことか…
まあ、しかし、ピュントが解決する作中作部分が悲しい結末であったことは、納得感はあるのでとりあえず良しとしたい。

私にとって問題なのはチャールズの犯行動機だ。彼は何十年も出版に関わってきた著名な人物であり、『ゴッドファーザー』を思い出させるような風貌であると紹介されている。その彼にして、金だの老後だのという犯行動機が、私には何ともせせこましく思えてならないのだ。
さらに、被害者とはいえアランが何とも共感しにくい人物だったことを考えれば、作品全体の読後感がトコトン悪い。
それを踏まえて、せめて主人公スーザンにとって師であり、戦友でもあるチャールズの犯行動機と顛末については、誇り高さがあっても良いのではないかと考えた。

ここからは勝手な二次創作だ。ぜひ、一読者のたわごとと気軽に読み流していただきたい。


展開としては、スーザンがチャールズの部屋で、行方不明のはずの『カササギ殺人事件』の結末原稿を見つけて、チャールズに対して謎解きを済ませた後の会話だと考えてほしい。

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彼はなにを言っているのだ? アランは作品を完成させているし、アランの「遺書」なるものはチャールズがでっちあげた嘘っぱちではないか。

チャールズは殺人を犯したストレスから、現実と空想世界の境界を見失ってしまったのだろうか?

戸惑う私に、チャールズは引き出しから紙の束を取り出して差し出した。

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何も答えられずにいる私に、チャールズは尚も熱弁をふるった。

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チャールズは満面の笑顔を浮かべていた。その表情は、一見すると素晴らしいミステリを読んだ時のファンの興奮を思わせるものだった。恍惚としているとすら言えた。彼は自分の考えによってエクスタシーを感じているのだ。

しかし、すべてを知った私の眼には、自己の過ちを正当化する殺人者が映っているだけだった。

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私がはっきりと拒絶したことで、彼の中の狂熱が鎮静化するのが見て取れた。立ち上がっていた彼は、わずかに肩を落とし、棚から別のウイスキーを取って自分のグラスに注いだ。

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チャールズは寂しそうに少しだけ笑った。そのまなざしには、私が知る穏やかな知識人の表情が戻っていた。ウイスキーをゆっくりと飲み干し、彼は静かにつぶやいた。

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その言葉の最後の方は聞き取るのが難しいほどだった。異変を感じた私は席を立って彼に駆け寄ったが、既に手遅れだった。最後の一杯は致死性が高い薬物だったのだろう。


この後は、オリジナルの「カササギ殺人事件」の最終部分、「クレタ島アイオス・ニコラオス」とほぼ同様に話を終える。だがスーザンは負傷していないので、編集者としての仕事やロンドンでの暮らしを懐かしみつつも、ギリシャではつらつと暮らしていける。
そして、時間とともにスーザンは以下のように考えるようになる。
「チャールズが言ったように、私が名探偵の話を生み出すのも悪くないわね。

もちろん殺人は架空の世界だけに限定してね。私はすでに多くのものを失ったのだから、これ以上何かを失う必要はないもの」


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