ひるの寝覚め #描写遊び
短い夢の欠片をいくつか断続的に見ていたような気がする。
その中に何か重要なワンシーンが含まれていたような気がするが、それが何だったのか自分の頭の中を覗いてみても、手で救い上げた水がすぐに隙間から零れだすように、どんなに力を込めても一向に形を成さない。
あるいは電信柱に区切られてこま撮りのようになった車窓風景の数々の中で、何か気になる光を捉えた気がしても、見逃したと思った瞬間にはすでにはるか後方に追いやられていて、それを瞳に映すことが叶わないこととも似ているかもしれない。
――しかし、次の瞬間にはその夢の断片も想起の努力も全てどうでもよくなった。二度とは思い起こすことのない日常の仕草として過去という広大な海原にそれは捨て去られる。
私は頭の下に敷かれていた手のしびれを自覚し、少しずつ眠りの世界から連れ戻すように、握っては開いてを繰り返した。
薄靄が晴れるように、手にじんわりと世界に対する境界が宿る。
意識は鮮明ではなく、気を抜けばまた睡魔の甘言に乗ってしまうそうだった。その魔の手を半ば強引に振り切るように、私は立ち上がった。重い瞼に阻まれた視界の中を、ゆっくりとした足取りで慎重に歩みを進める。
午睡というにはしばし長かった眠りは、頭の重さを私に残した。
時刻は一六時に迫ろうとしている。この分では作業を再開してもすぐに夕飯の支度で中断せざるを得ない。
やり場のない恨みがましい気持ちを一旦丸め込んで、いじけても仕方がないのでコーヒーを淹れた。
コーヒーそのものではなく、コーヒーを淹れるという作業によって目を覚ますために。
油が切れたチェーンのように、瞼にぎこちない硬直が残る。
もこもことフィルターの上で膨らむコーヒー豆が、ふすふすとその独特な香りを上げ始めると、キッチンの平凡な景色の中に、煉瓦造りの喫茶店の内装が重なって見えた。
すぅ、とゆっくりと深呼吸をすれば、焦げた香りが鼻腔を通り抜けて、寝ぼけた頭の中に寝覚めを告げる。
「さあ、もうひと頑張り。」
白いマグカップを自室に運ぶ手の中で、じりじりと強まる熱が私を急かした。
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たまたまお見かけしたので、素敵な企画だなと思い、「#描写遊び」参加させていただきました!