手を挙げた子どもを待つような、悪戯に創り出した沈黙を無心に気遣う、ありきたりで退屈な、夢を見るような、窓際に凭れた、雪を見つめる、寂しく切なく苦しく、見栄を見切れず、成功を軽蔑した、不出来な心。

 百日紅の散るまで傍にあり、枇杷の実るまで傍にあり、楠の枯れるまで傍にあり、風を待ち、雲を呼び、一握の砂さえ友として笑い、人を憎み、惜しみ、恨めしく思い、空虚な自分と嘆くような、傲慢な心。

 咲く、指の先を暗闇に伸ばす、一瞬の、葉音の、小さな重みの、弾けた気泡の、雷鳴のあとの耳鳴の、腹を揺らす振動の、痛切な愛の無鉄砲さを持った、回り道を逃げ道として肯定した、道草を知る、一心の心。

 硝子の向こうの、ポストの中の、地べたに貼り付いた、擦り切れた糸の、苔の、静かな空腹の、昨夜の凪の、記憶よりも前の匂いのような、ここにある、布団の中で泣く、気高き、雄弁な、白を染める、ただの心。

心 雪屋双喜
2024.9.24

それには来ないでもよろしいという文句だけしかなかった。

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