文体

 透明な、雪の降る寒さの、静かでいて、確かな、読み手が初めて世界から見つけるような、石の転がるような、人間臭く、風の吹くように高尚で、どこまでも碇を沈めていく、夏の暮れのような文体。

 気がつけば全てが見えるような、丘の上に立つ木の上に独り登っていく、晴れた空の下で手を翳してもっと遠くを眺めるような、雲を遠くに感じたままに笑ってしまったような、巫山戯た文体。

 感情を見出した喜びを無添加に切り出した、痛みを伴った、濡れた子の掌のような、小さく柔らかく、命全体を包み隠さず差し出した、赦しを乞う後ろめたさの、何も持たない根無しのような、その場しのぎの文体。

 澄んで、黒く、道を示すようでありながら友を探すだけであり、摯実で、迷いを忘れ一点を見つめ、遠くの蛍を飲み込み、存続のための破壊を悲しみ、揺らいだようでありながら瀬を流れ下るような、寂しい文体。


文体 雪屋双喜
2024.9.23

だが結局、文体はそれをつくりだす心の反映でしかないのだらう。

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