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星野源をみると劣等感がうずく

私は星野源が好きじゃない。

星野源をみると、劣等感が激しくうずくからだ。

私はファンでもなければ、アンチでもない。星野源を詳しく知らない。知っているのは歌手・俳優・作家と幅広く活躍しているという事実くらいだ。

でも星野源に劣等感を感じるのは、その器用さゆえではない。彼の「普通」なところだ。いや実際は非凡なのかもしれない、芸能人だし。ファンじゃないから分からないけど。でもなぜだか星野源には、とてつもない「普通」を感じる。手の届かない「芸能人」とは、どこか違う。街や電車のどこかですれ違っていて、同じ大学の授業を受けていたような「普通」さがある気がする。でも実際は普通じゃない。曲がつくれるし、演技もできて、文章が書けて、ガッキーと結婚した(NEW!)超ハイスペックな芸能人だ。全然普通じゃない、なのに穏やかな「普通」を感じる。きっとその矛盾が嫌なのだ。

私は星野源を好きにならない。なりたくない。

星野源は、学校や勤務先に1人はいそうなあっさりした顔をしている。“なのに”か、“だから”か、星野源はイケメンだといわれている。たしかに素朴でやさしげな雰囲気の顔立ちだ。福山雅治や竹野内豊みたいな超イケメンではないけど、身近にいたら盗み見してしまうだろう。

ある時まとめサイトを巡回していたら、星野源の中学・高校時代の写真に遭遇した。掲示板には「中学 女性教師にませた手紙を書いた」とタイトルが付けられた写真があった。そこには中年国語教師のようなセンター分けに、手つかずの眉毛、ガリ勉を彷彿させる細いフチの丸眼鏡、そしてチェック柄のシャツを着た男子がいた。

すごくダサい。
だからこそ、劣等感は強まった。

昔からイケメンであれば、自分とは違う世界なのだと安心できる。でもダサかった過去があるからこそ、その変身ぶりが不安と焦りをかきたてる。ふと思い出したのは、中学時代に一緒に登下校していた友人だった。彼女は、高校に入学した途端に彼氏をつくった。その子はいつも低い位置で髪を1つに結んでおり、スカートはひざ下、中学時代はずっと彼氏がいなくて、私と同じ地味グループに属していた。だから高校生になってすぐ彼氏ができたと聞いたとき、裏切られたような気分になったのだ。高校になっても彼氏ができない自分が、みじめみたいじゃないか!!と。

大変身を遂げた星野源からは、そんな裏切りの匂いがする。そもそも同じ世界にいないんだけど、星野源の「普通さ」がそう感じさせる。昔から全然変わってない自分が、まちがいさがしの間違いみたいに思えてくるのだ。

私は星野源を好きになるつもりはない。ならないようにしたい。

顔がイケてて、歌も演技もできるだけならいい。だって芸能人だから。でも星野源は、文章も書けてしまうのだ。ずっと前から星野源がエッセイ本を出しているのは知っていた。ずいぶん売れてるのも。でも何度本屋へ行っても、星野源の本だけは手に取ろうともしなかった。芸能人の出す本だからだ。芸能人として名が売れたから、本を出したに違いない。きっとファンなら喜んで本を買うのだろう。でも私は買わないし、読まない。読みたくない。言っておくが、女子全員が星野源をチヤホヤするわけじゃないのだ。

だけどウッカリ読んでしまった。きっかけは、”sentence”という会員制のライターコミュニティーのイベントに参加したとき。運営スタッフでライターの西山さんが「星野源はエッセイ書くのがめちゃくちゃ上手い」と言い、あるエッセイを共有してくれた。『そして生活はつづく』の 「生活はつづく」という話だ。厚意をムダにするのは気が引けたので、しぶしぶ読んでみた。

うわ、なんだこれ。超面白いじゃないか。街で知らない人に声をかけられるというあるある話で読む人の興味をぐっと引き付ける。気取らない文体で、ほどよい自虐エピソードが読みやすい。何度か話題が切り替わるけど、どれも自然で美しい。真面目な感じで終わると思いきや、オチはカッコつけずに締めている。認めざるを得ない、素晴らしいエッセイだ。こりゃ売れるわ。

編集者&ライターとして働く私は、文章がうまい人にはすぐ嫉妬する。書く仕事が本業じゃない人は、なおさらだ。さらに星野源は「普通」だからもっと悔しい。もう、ハイスペックならハイスペックらしくいてくれ。「普通」とはほど遠い場所で、タワマンや六本木が似合う人になってほしい。だけど星野源はどこまでも「普通」だ。その「普通さ」のせいだろうか、私は好きでもない星野源の文章を夜中に書きなぐっている。

私は星野源を嫌いでいたい。嫌いになりたい。

いまも私は星野源をほとんど知らない。好きも嫌いもない、はずだ。それでもnoteを1記事書いてしまうほど、彼は私の心を揺さぶって離れない。もし星野源をもっと知ってしまったら、どうなってしまうんだろうか。

私は星野源を好きになるかもしれなくて、怖い。

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