5年前の「アイス・バケツ・チャレンジ」を覚えていますか
他人のFacebookの投稿をさかのぼるのが好きだ。会社の同僚や友人の名前を検索して、彼らの投稿をさかのぼる。よほど頻繁に更新する人でなければ、あっという間に大学生や高校生の写真まで確認できる。彼らの写真を見ながら、「あ~、あのときはよくプリクラ撮ってたな~」と自分の思い出を重ねて懐かしむ。わたしは、そんな悪趣味なヒマつぶしをしている。
台風19号に備えて早く帰った夜、「#あの恋」のnoteを書こうとしていた。ネタ探しのため、昔好きだった人のFacebookをさかのぼっていたときだった。ある動画を見つけた。原っぱの上に1人ぽつんと立っていて、その人の目の前にはバケツが置いてあった。動画では、大人になった好きな人が話す。
「この度△△くんから指名を受けたので、アイス・バケツ・チャレンジをやりたいと思います。次に僕が指名するのは、〇〇大学の××くんです。××くんは24時間以内に、アイス・バケツ・チャレンジか募金をしてください」
それは、彼がアイス・バケツ・チャレンジをしていた動画だった。
5年前、氷水を入れたバケツを頭から浴びる「アイス・バケツ・チャレンジ」が流行した。体の筋肉が動かなくなるALSの知名度向上のため、アメリカからSNSで発信された。2014年頃、マーク・ザッカーバーグなどの著名人もこのチャレンジをするようになり、日本でも水をかぶる動画が多く投稿されていた。最初は有名人がYouTubeにアップするのが大半だった。ただ気づけば、身近な友人もSNSに水をかぶる動画を投稿するようになった。
アイス・バケツ・チャレンジには厳しいルールがある。指名された者は、24時間以内に水をかぶるか募金をするか選択しないといけない。そしてアイス・バケツ・チャレンジをした後には、自分の友人を3名程度指名する必要がある。ALS支援の輪が、アイス・バケツ・チャレンジを通して少しずつ広がっていくイメージだったんだろう。
上手くいっていれば、参加者は雪だるま式に増えているはずだ。友達の多い人なら「もう3回やってるのにまた指名されたw」となっていてもおかしくない。しかし、2019年現在ではアイス・バケツ・チャレンジの話は全く聞かない。わたしも元好きな人のFacebookを遡らなければ、すっかり忘れていた。
無理もない。アイス・バケツ・チャレンジはSNSへの投稿を促す面白さと誰にもできるシンプルさがある一方で、その善意を押し付けるような拡散方法がよく批判されていた。
善意からは逃げにくい。なぜなら善意の反対は「悪意」になるから。「みんなでALSの知名度を向上させよう!」としているとき、指名されても「興味ねーよ」とミッションをクリアしない人は「悪」だとみなされる。しかも使命はたいていSNSで行われるので、不参加は多くの人から悪者と思われる。だからみんな最初は続け、指名し続ける。でも全員がチャレンジや募金をしたいわけじゃない。誰かが無理して、このチャレンジは続けられていた。人が無理して続けるものは、いずれすたれてしまう。だから2019年になった今では、跡形もなく消えてしまったんだろう。
やっぱり、無理をするのは良くない。善意がいつも正義ではないので、善意の圧力に惑わされずに、嫌なものは嫌だと言えるようになりたいと思った。
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