<文献紹介第11段:バーチャルリアリティ(VR)は心臓手術後患者の疼痛を軽減できるのか?>
はじめに
皆さんはヴァーチャルリアリティー(VR)は体験したことがありますか?!
近年、ヘッドマウントデバイスにスマートフォンを装着することで、
誰でも手軽に体験することができるようになってきています。
なんといってもVRは「没入感」がウリなんだとか!
アーティストのライブを観るなら、自分の目の前にアーティストがいるような感覚になります。行ったことがない国やもしかすると、現実には存在しない魔法の国に行くことも可能かもしれません。
以前、VRを体験した時、目の前の映像が凄すぎて、自分の五感や意識がバーチャルリアリティの中に吸い込まれたような感覚がありました。
これがいわゆる「没入感」なのでしょうか?!目の前に写っている映像に意識がとても集中して、現実世界のことを一瞬忘れてしまった感覚があります。
そんな最新技術をクリティカルケアで応用していく場合、どんな場面で利用することができるでしょうか!?
今回は「手術を受けた患者さんの痛みといった不快感」に焦点を当て、
VRを体験することの効果を検証した研究をご紹介します!
(この論文はPADISガイドラインでも取り上げられている文献になります。
ただ、PADISガイドラインでも研究方法などに問題があるといった記載が
ありました。
ですので、今世界ではどのような研究や最新技術の臨床応用が行われているか、
知ることだけではなく、この研究ってこれで大丈夫なの?!という視点でも読
んでもらえると嬉しいです!、論文なんてあんまり読んだことがないという方
でも、「これってどういうこと?、ここもっと詳しく知りたい!」
といった視点で読んでもらえるといいかもしれません。)
では、いってみましょう(^^)
ご紹介する文献
**Virtual Reality for Pain Management in Cardiac Surgery. **
**Mosso-Vázquez, J. L., Gao, K., Wiederhold, B. K., & Wiederhold, M. D. (2014). **
**Cyberpsychology, Behavior, and Social Networking, 17(6), 371–378. **
URL:http://doi.org/10.1089/cyber.2014.0198
【背景】
手術を受けた患者に対する、バーチャルリアリティ(VR)の効果(術後の不快感やバイタルサイン)を検証することを目的としている。
【研究方法】
「心臓手術を受け、ICUに入室した患者に対して、VR(介入)を行っています。その際、VRを体験する前のデータとVRを体験した後のデータを比較することで、VRが手術後患者に与える影響を比較検討しています。」
研究デザイン:前後比較研究(介入の前後を比較する研究デザイン)
研究場所:ICU(主に心臓外科術後患者が入室)
研究対象者:心臓血管外科(MVR、AVR、TVR、TAP、三尖弁交連切開術など)、PCI
介入方法(I):ヘッドマウントディスプレイを装着し、
30分間ヴァーチャルリアリティー(VR)映像を体験した。
内容:5つ(渓谷、夢のお城、アマゾン、氷の世界、ドライブ、歩行、自転車)
介入時期:心臓外科術後24時間以内
データ収集:介入前(C)、介入後
収集したデータ(O)
・バイタルサイン:平均血圧、脈拍、呼吸回数、SpO2
・疼痛の自覚の程度:リッカート尺度を用いた疼痛の
自覚の評価
※NRSやVASを用いるという具体的な記載はなく、
リッカート尺度の範囲の記載はない
(例えば、0~10点といった感じ)。
【結果】
研究対象者:67名(男性25名、女性42名)
有害事象の発生:1名(不整脈)、3人(嘔気・めまい)
・67人の患者のうち、59人の患者(88%)が治療後の痛みのレベルの低下
・リッカート尺度の平均変化量(⊿:デルタ)は「3.75」
(介入前の値と介入後の値を引くと、前後で変化した程度がわかります。
それを患者全体で平均をとったものが平均変化量になります。)
・リッカート尺度の変化は、「重度」から「中程度」または
「中程度」から「軽度」への減少に相当する
・バイタルサインの変化:介入前後でバイタルサインの低下を経験した
対象者の割合
心拍数:25人(37.3%)
平均動脈圧:35人(52.2%)
呼吸回数:呼吸回数の評価を行った研究対象者22名
の内、14人(64%)
【結論】
有害事象も少なく、ストレスが軽減する結果であった。
そのため、VRは手術患者にとって有効な手段であると考えられる。
【私見】
皆さんは読んだときどのようなことを考えましたか?!
個人的にVRの臨床応用を考える上でワクワクして読んでみたのですが、確かに、研究方法で気になる点がたくさんあるため、この研究の結果をすぐに臨床応用に活かせる!という感じではありませんでした!
研究方法をみていく上で、少しだけ気になった点をお伝えします。
1.研究対象者の設定
心臓手術の中に、PCIが含まれています。カテーテル治療と外科治療では侵襲度が異なることや術後の状況も異なります。鎮静薬を使用している場合もありますし、挿管している可能性もあります。また、結果でも男女比の記載はあったのですが、それ以外の情報が論文に記載がありませんでした。ということは、どんな患者が多く含まれているのか、APATCHⅡスコアは?、年齢は?などの情報がありません。この研究の結果が良いものだとして、どのような対象者に適応できるのかが不明な状況になります。
2.データ収集
タイミング:「術後24時間以内という記載のみ」のため、やはり患者の状況がみえてこないのが事実です。
データ収集方法:「疼痛の自覚の程度をリッカート尺度」を用いて測定しています。皆さんの病院では。主観的疼痛評価スケールと聞くと、NRSやVASを思い浮かべると思います。しかしながら、本研究ではこういった信頼性や妥当性のある疼痛評価スケールを用いていません。そのため、疼痛をきちんと評価できているのか、客観性が担保できない。という問題点もあります。
他にも気になった部分はありますが、
上記の点は少なくとも研究方法としてきちんとおさえておかないといけない部分
ではないかと思います。
実際、PADISガイドラインでも、「研究方法論的限界から、非常に低いエビデンスレベルで臨床医が成人重症患者の痛みの管理にVRを用いないことを提案する。 」と書かれています。
そのため、本研究の結果を鵜呑みにして、じゃぁ、明日からVRが疼痛緩和に使える!とは言いにくい結果でした。
しかし、VRを利用することがバイタルサインが身体的・精神的な部分に影響を与える可能性は示唆しているのではないかと思います。そのため、今後も検証を重ねる中で非薬物療法の一つとして、新しい治療の一つになる日がくれば面白いな感じました!
個人的には「術後疼痛」といった短期的アウトカムも気になるのですが、VRがリラクセーション効果を発揮したことで、PICS(うつやPTSD)が減少した的な「長期的アウトカム」との関連性も気になるなと思います。
教育だけではなく、こういった看護ケアにもVRは活かせる技術だと思っています!!どなたか一緒に研究して頂ける方がいらっしゃたら嬉しいですっ!
長くなりましたが、読んで下さってありがとうございます。
また、臨床に直結するものもそうですが、
新しい研究結果についても、お伝えしていきます。