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摂食障害だったあなたへ。②~中学1年生のあなたへ。~

*以下、毎回この連載の試みの説明をいれていきます。

「もう知ってるよー」という方は下の~・~・~線のところまで飛ばして下さいね。*

 これは過去16年間ほど摂食障害を患っていた私へ、現在の私がお手紙を書いてみるという試みです。

今はまったく摂食障害の症状が出なくなった私が、過去の私にお手紙を書いてみたら治った理由がわかるのではないか?

自分が過去の自分にお手紙を出すことによって、忘れていた出来事を思い出すことができ、そこを見つめることで私に更なる変化があるのではないか?もしくは何にも起こらないのか?

などの検証です。

詳しくはこちらをどうぞ。↓↓


今日は今の私が、そろそろ太っていることへの悩みが強くなってきた中学1年生のころの私へとお手紙を綴ります。

書くことが怖くもあるけれど、書きたいので書いてみます。

よかったらお付き合いください。

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・

中学生になった幸江ちゃんへ

 幸江ちゃん、中学校はどう?

楽しい?

きっとあなたはこの質問に対してこう答えるでしょうね。

「うーん…。楽しいところもあるけれど…毎日苦しいよ。悩みがいっぱいだよ。」

と。

中学生になるとき、まず最初に嫌だったのは制服を作る時だったよね。

サイズを計らなきゃいけなかったでしょ?

あれは嫌だったよねぇ。

周りの他の女子はほとんど細い子ばかりだったし、たまにぽっちゃりの子がいても自分の比ではなかったもんね。

あなたは「早くこの時間が終わらないかなぁ。」と俯きながら思っていたよね。

夏服のブラウスや体操服の注文もしなければいけなくて、お母さんが「このサイズでこの子入るかしら?」と言う度に「入らなかったらどうしよう…」とドキドキしたよね。

全ての採寸とサイズの確認が終わって帰る時、お母さんがこんなことを小さい声で言っていたね。

「幸江はちょっと痩せないとダメかしらねぇ…。」

あなたはその言葉を聞いてまた落ち込んだよね。

お母さんは太っている私が恥ずかしいんだ。

お母さんは太っている私が嫌なんだ。

ってね。

髪の毛は小さい頃からひどいくせっけのもじゃもじゃで、いつも短く切られていたよね。

それにくわえてかなり太っているし、小学校高学年のころから目が悪くなり始めたことでメガネのあなた。

もじゃもじゃ、デブ、メガネってなんかもう最悪じゃん!って思ってたでしょ。

 仕上がってきた制服を箱から出してみたとき、初めてのセーラー服でテンション上がってたあなた。

紺色のセーラー服。

赤か白のスカーフがよかったけど、あなたが通う中学校は紺色のスカーフだったよね。

襟のセーラーテープの色も白か赤がよかったけれど、これも紺色だったよね。

紺色のセーラー服に紺色のスカーフに紺色のセーラーテープ。

全てが紺色で「せっかくのセーラー服なのにあんまり可愛くないなぁ…。」と思いながらも嬉しかったよね。

ウキウキしながら新しい制服に腕を通したけれど、その姿を鏡に映したとき、あなたはとてもがっかりしたんだ。

「なにこれ。ぜんぜんに似合ってないし、ぜんぜん可愛くない。」

と。

お父さんとお母さんに制服姿を見せたとき、(ほんとは見せたくなかったんだけど「見せろみせろ」って言われたんだよね。)「あら!いいじゃない。」とか「ほう。おまえも中学生か。」と嬉しそうに笑っていたけれど、制服のサイズを計りに行った時に言ったお母さんの言葉が頭の中に何度も浮かび、「そんなこと思ってない癖に。」と思っていたんだよね。


それでも中学生になったことは嬉しくて、どんなお友達ができるか楽しみではあったよね。

それと同時に、太っていることをいじめられたらどうしよう…っていう思いもあったこと、今思い出しているよ。

そうだ。

1年生の時のクラスは辛かったんだよね。

切ない思い出がたくさんある1年だったんだ。

のりちゃんっていう女子がほんとに意地悪で、のりちゃんにくっついている小百合ちゃんっていう子も驚くほど意地悪だったんだよね。(仮名です。)

のりちゃんと小百合ちゃんはいわゆるイケてる女子で、可愛かった。

男子にも人気があったけれど、男子の前と女子の前では「えーーーーー!!!」ってのけぞっちゃうほど態度が違ったんだよね。

のりちゃんは男子の前だとやけに身体がくねくねして、前髪をいつもいじっていたんだ。

小百合ちゃんは小さくて細い女の子で、声がとてつもなく可愛らしかったんだよね。

でも陰ではとても陰湿な悪口をクスクス笑いながら楽しそうに言う女子だったんだっけ。

のりちゃんと小百合ちゃんがなぜかあなたのことを気に入って、デブでメガネでもじゃもじゃのまったくイケてない私をグループに入れたんだよね。

その時仲良しだった大好きな水沢マン(←あだ名)も一緒にね。

のりちゃんと小百合ちゃんはあなたに優しくしてくれたし、可愛く声もかけてくれたんだよね。

最初はそれがとても嬉しくて、「可愛い女子の友達ができたー!」と喜んでいたけれど、さっき書いたようなことがだんだんわかってきて、とっても悩んだよね。

なんで男子の前と女子の前であんなに態度を変えられるんだろう。

女子の気に入らない子の悪口をいつも言っているけれど、私がいないところで私の悪口も言っているんじゃないだろうか。

どうしてそんなことができるんだろう。

どうしてそんなことをするんだろう。

のりちゃんにも小百合ちゃんにも優しいところもあるんだと信じたい。

でも話しを聞いていたり態度を見ていると、すごく意地悪に感じるし嘘をつき続けているようにしか見えない。

同じグループにいるから、同じように悪口を言わせようとするなんておかしい。

でも逆らうのが怖いから薄ら笑いしかできない私はなんて卑怯者なんだろう。

「ねぇ、幸江ちゃんもそう思うでしょ?」

「ねぇ!ゆきえちゃんだって同じ考えでしょ?」

そう聞かれる度に苦しかったよね。

そんな時は放課後に水沢マンと「…あれはひどいと思わない?」と本音を話したね。

それからだんだんとのりちゃんと小百合ちゃんの勢力は増してきて、クラスの女子が誰も逆らうことができなくなっていったんだ。

そうだ。

あの日の出来事は44歳になった今もずっと胸を痛めているんだよ。

当時、のりちゃんと小百合ちゃんのいじめのターゲットにされていた亜紀ちゃんを放課後呼び出し、事前にのりちゃんから告知を受けていた女子全員で待ち受けていたんだよね。

机を全部端っこに寄せて、真ん中に置いた椅子に亜紀ちゃんを座らせて、女子全員でフルーツバスケットをやるときみたいに椅子をぐるりと並べて取り囲んだんだよね。

これでフルーツバスケットがはじまったならよかったけれど、実際はじまったのは亜紀ちゃんへの“いじめ”だったね。

「みんなで一言ずつ亜紀に気に入らないところを言っていくんだよ。これは亜紀のためなんだから。いじめているわけじゃないんだからね。」

のりちゃんのこんな言葉から地獄の時間がはじまったんだ。

「…モタモタしてるところがムカつく…」

「…いつもつまんないことばっかり言っているのが嫌だ。うっとおしい…。」

「…一緒にいたくないのにくっついてくるのが気持ち悪い…」

「顔がきらい。」

「男子に媚びうっているところが嫌だ…。」

みんなが口々に亜紀ちゃんに酷いことを言っていたね。

あぁ。

今思い出してこうやって書いているだけでも吐きそうになるよ。

亜紀ちゃんとあなたは同じ演劇部だったんだよね。

お目目がとても大きくて可愛い顔をした亜紀ちゃんは、ちょっとだけヤンキーに憧れていてあなたにはわからない好みの持ち主だったけれど、別に嫌いでもなかったし、嫌だとも思っていなかったんだよね。

でもこの会を断る勇気がなかったあなた。

真ん中に座らされて、みんなから酷い言葉を次々投げつけられる亜紀ちゃんは大きなお目目から大粒の涙をボロボロと流していたんだよね。

「これは一体何が行われているんだろう…」

そんなことを目を見開いたまま思っていたでしょ。

こんな地獄のような時間があるんだ、とびっくりしていたでしょ。

あなたはあの時、亜紀ちゃんのお母さんの気持ちを考えていたんだよね。

「亜紀ちゃんのお母さんがこのことを知ったらどんなに悲しいだろう。」

って。

と同時にこれを言い出したのりちゃんと小百合ちゃんのお母さんの気持ちも考えていたんだよね。

「のりちゃんと小百合ちゃんのお母さんも自分の子がこんなことをしているって知ったらどんなに悲しむだろう。」

って。

ほんとに優しい子だね。

どんどん自分の番が近づいてきて、あなたはとても迷ったね。

「どうしよう。同じように亜紀ちゃんに酷い事を言わないとのりちゃんと小百合ちゃんに怒られる。今度は私が亜紀ちゃんの立場になってしまう。

いじめられるのは嫌だ。でも亜紀ちゃんに思ってもいないことを言うのは嫌だ。どうしよう。どうしよう。怖い。怖い。」

水沢マンはあなたの次の番。

あなたは亜紀ちゃんの姿と周りのみんなの様子をチラチラ見ながら、チラッと水沢マンの方を見たんだ。

そうしたら水沢マンがとっても悲しそうな顔をしながら俯いていたんだよね。

その姿を見てあなたはドキドキしながら決めたんだ。

とうとう順番が回って来た時のあなたは心臓が飛び出しそうなほどドキドキしてたけれど、とても堂々としていたように記憶しているよ。

「…私は…別に亜紀ちゃんのこと嫌だと思ってない…んだ。だから…言うことはなんにもないよ。」

あなたのその言葉に亜紀ちゃんは涙をボロボロ流しながらジッとあなたを見ていたね。

水沢マンはあなたのその言葉を聞いて顔をぱっとあげて、「私も小杉マン(←私のあだ名)と同じで何にも言うことないよ。」と言ったんだよね。

のりちゃんと小百合ちゃんは「え?!」と言いながら睨んできていたからそれはそれは怖かったよね。

私の今の記憶ではそこまでしかないんだけど、あれはどうやって終わったんだろう。

あの後どうだった?

どうやって帰ったかも覚えていないんだ。

でもすごく覚えているのは、もっとちゃんと亜紀ちゃんをかばってあげればよかった、こんなのおかしい!ってもっとちゃんと言えばよかったって思ったことと、同時に「これからどうなっちゃうんだろう…次は私が仲間外れにあうんだ…」と不安になったことだよ。


私は私がいじめられないようにあの子たちに合わせようとしていたし、今だって私がいじめられるのは嫌だと思っている。

私以外の誰かがターゲットになっている間は私がいじめられなくて済む。

って!!

そんなことを考えている私はなんて醜いんだ!!

容姿と一緒に私は中身まで醜い最低のヤツだ!!

こんなこと誰にも言えない。

お母さんにもお父さんにも言えない。

私はこんなにも卑怯で醜い考えをしているんだ。

デブでもじゃもじゃでメガネで考えまで最低なやつなんだ。


そうやって自分をすごく責めていたね。


あなたが小さい頃からお父さんがよくこんなことを言っていたよね。

「辛い出来事があったときはこう考えるんだぞ。『またひとつ辛い人の気持ちがわかるようになった』って。そうやって人は優しくなっていくんだぞ。」

あなたは小学生のころからこの言葉をいつも胸に秘めて生きていたよね。

「デーブ!」とからかわれて辛い気持ちになった時は「私は太っている人の気持ちがわかるんだから。」「なんていわれたら辛いのかは太っている人にしかわからないんだから」「私は人を傷つけるようなことは絶対言わない。だって傷つくようなことを言われたらどんな風に辛いか知ってるから。」

そんなことを何度も何度も思って生きていたのに、結局は自分の身を守るためにへらへら笑って合わせていたり、少し反発したとしても「これから私がいじめられるかも…」と弱弱しく心配したりして、なんと卑怯な優しくない醜い人間なんだろうと自分のことがますます嫌になったんだよね。


嫌いだ。

私は私のことが嫌いだ。

醜いし卑怯だし弱虫だし自己保身ばかり考えている私なんて最低なやつだ。

そんなことを思い始めていたね。

表面的にはあなたはいつだって明るくて面白いやつだったし、友達だってクラス外にも割といたし、部活も先輩たちが優しくて楽しかった。

あなたが心の奥底で「自分が醜くて嫌いだ!」なんて思い始めていることを誰も知らなかったよね。


部活が終わったある日の夕方。

1人でトボトボと帰っている時、あなたはこんなことを考えていたでしょ。

私が痩せたら世界がきっと変わるんだ。私が痩せたら今持っている悩み事は全てなくなるんだ。私が痩せたらこの苦しさはなくなるんだ。私が痩せたらみんなと同じになれるんだ。私が痩せたらお母さんとお父さんを悲しませないでいられるんだ。私が痩せたらきっと全てが変わるんだ。


呪文のように繰り返していたよね。

その思いが通じたのかな。

その後、しばらくして叔母さんが訪ねて来たんだよね。

魔法の薬をもって。


ねぇ。

今の私から中学一年生のあなたに言葉を贈るね。

あなたはほんとに健気でいい子です。

胸を痛める出来事が小学生の頃よりも少し複雑化してきたけれど、

一生懸命考えていて偉いと思うよ。

そんなあなたはとても美しいです。

今の私があなたを見つめると、どれだけ純粋でどれだけ美しい心をもっているかがとてもわかるんだ。

迷い、悩み、考え、胸を痛める、ということを一生懸命やっているあなたがとても愛しいです。

今現在の私もあまりそういう部分は変わらないのだけれど、それを44歳の私は誇りに思っています。(めんどくさい時もあるけどね。笑)

あなたは一生懸命自分の頭で考えようとする、素敵な子です。

痩せたら全てが変わる!と今は信じているけれど、それは仕方がなかったことだよね。

だってそれしか考えられなかったんだから。

これからどうなるかは私から話さないでおくね。

魔法の薬を飲むことになるけれど、その後どうなるかはあえて言わないでおきます。

だって言ったってやりたいことはやりたいもんね。

なんか含みがある言い方してごめん。

大丈夫だよ。

何が起こっても大丈夫だから。

今、私はとっても幸せだよってことだけ伝えておくね。

それはあなたのお陰です。

あなたが一生懸命考えて、悩んで、そして生きてくれたお陰です。

大好きです。

愛しい幸江ちゃんへ。

またお手紙書くね。

あなたはとっても優しくていい子だよ。










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