【声劇フリー台本】ありふれた記憶

そういえば昔、こんな叱られ方をしたなぁという一人用お気持ち台本です。
明るくはありません。

ご利用の際は利用規則をご一読下さいますようお願い申し上げます。


【利用規則】


◆この台本の著作権は全て影都千虎に帰属しています。

 商用・非商用問わずご利用いただけます。
 ご自由にお使いください。

 利用時のご連絡は任意ですが、ご連絡をいただけますと大変励みになりますし、喜んで影都千虎が拝聴致します。

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 台本のアレンジはご自由に行いください。
 便宜上、一人称・二人称を設定しておりますが、いずれも変更していただいて問題ございません。


◆無断転載、改変による転載、自作発言は絶対におやめください。


【台本】


 廊下の端目掛けて色んなものを投げつけられた。
 床に思いきりゲームを叩きつけられた。


 壊れたものもあった。
 床に散乱したものを見ていたらどうしようもなく悲しくなった。


 自分が悪かったってことは分かってる。
 悪いことをしたからそうされたんだって分かってる。
 そうさせてしまった自分が悪い。
 そうやって怒られるようなことをしたのは自分だ。
 だからひたすら涙を流しながら「ごめんなさい」って言い続けていた。
 謝り続けることしかできなかった。


 怒りが収まらなかったのか、僕が全く反省していなかったのか、色々なものを投げられた後で殴られたり蹴られたりもした。
 出て行けと怒鳴られたこともあった。



 昔の記憶。
 ずっとずっと昔の記憶。

 そうやって叱られた。よくある家庭の日常の一コマ。
 本当にどこにでもある、ありふれた話。
 だけどどうしてか強く強く記憶に刻まれてしまった。
 自分が悪いことをしたからなのに、強烈に悲しくて嫌な記憶として残っていたらしい。



 そんな昔の記憶を急に夢に見たんだ。
 蹴られた腹の痛みが、殴られた頭の痛みが鮮明に思い出された。
 夢から覚めてすぐは、「ああ、そんなこともあったな」程度の感情だった。
 だけどしばらくして少しずつ、少しずつ薄暗いものが顔を覗かせてきているような気がする。


 そのせいだろう。
 今日一日中、自分の親に対しての苦手意識がぬぐえないまま過ごしたのは。
 今日一日中、何とも言えぬ感情を抱えたまま過ごしたのは。


 別にトラウマでも何でもない。
 これを思い出してしまったからって何が起こるわけでもない。
 何でもない。大丈夫だ。

 ただ少し、少しだけ胸が苦しい。
 少しだけ胃のあたりがぐるぐると気持ち悪い。
 それだけ。それだけだ。


 今はもう、あの頃のような叱られ方はしない。
 自分のものを投げられないし、壊されない。
 殴られたり蹴られたりもしない。
 仮に出ていけと言われても、荷物をまとめて平気で出ていける。


 あの頃とはもう違う。
 それにほら、今では休日に仲良く出掛けているんだ。
 好きな曲の話をして、時折仕事の愚痴を吐いて、楽しくお酒を飲んでいる。
 ありふれた、仲の良い家族。
 だからもう大丈夫な筈なんだ。


 でも、時折思うんだ。
 僕はこんな叱られ方を何度かしたけれど、兄弟は果たしてどうだったかなって。
 同じ家に住んでいたのに、そんな場面には遭遇しなかった。


 僕だけ、どうして。
 物を投げられて悲しい、殴られたり蹴られたりして辛いと言うよりも、そちらに対する感情の方が大きい。


 どうして?
 どうして兄弟は許されたの?
 どうして兄弟には僕に言ったことと同じことを言わないの?
 どうして僕にだけそれを言うの?


……あーあ。
 こんなどうしようもないこと、思い出したくもなかったな。
 今となっては昔の話。
 今更考えたって仕方のないこと。


 ああ、なんだか随分と眠たいな。

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