【声劇フリー台本】癒えない傷
『君』の死に立ち会った、ちょっとだけ重たい話の台本です。
苦手な方はご注意ください。
台本というよりもほぼ小説かもしれません。
尚、ご利用の際は利用規則をご一読くださいますようお願い申し上げます。
【利用規則】
◆この台本の著作権は全て影都千虎に帰属しています。
商用・非商用問わずご利用いただけます。
ご自由にお使いください。
利用時のご連絡は任意ですが、ご連絡をいただけますと大変励みになりますし、喜んで影都千虎が拝聴致します。
音声作品には以下を明記するようお願いいたします。
・作者名:影都千虎
・当台本のURLまたは影都千虎のTwitter ID
(@yukitora01)
配信でのご利用も可能です。
配信で利用される際には、上記二点は口頭で問題ございません。
また、配信で利用される場合、台本を画面上に映していただいて構いません。
台本のアレンジはご自由に行いください。
便宜上、一人称・二人称を設定しておりますが、いずれも変更していただいて問題ございません。
◆無断転載、改変による転載、自作発言は絶対におやめください。
【台本】
どこに行っちゃったんだろう……?
さっきまでそこにいた筈だったのに……おーい?
こっちかな……? 居ないなぁ。
ううん、困った。聞きたいことがあったのに。
……あれ? あそこの扉、ちょっと開いてる。
なぁんだ。そんなところに居たんだね。
ねえねえ!
…………え?
…………なんで、倒れて……?
そこから先のことはよく覚えていない。
唯一覚えているのは救急車のサイレンが鳴り響いて、君は運ばれていった。それだけだ。
倒れてぐったりとした君の姿が脳裏に焼き付いて離れない。
どうして。なんで。何があって。何が原因で。
疑問がいくつも渦巻くけれどそこに答えなどなくて。誰も僕に答えを教えてくれなくて。
だからだろうか。
少ししたらまた君は元気になって、一緒に過ごせるとそう思っていたんだ。
楽観的に考えすぎていた。
本当に、何も知らなくて、何も分かっていなかった。
今日はやっと君に会える!
思っていたよりも時間がかかっちゃったけど、やっと会っていいって言われたんだ。
嬉しいなぁ。
やっほー、遊びに来たよ!
久しぶりに君に会えることが嬉しくて、少し浮かれながら扉を開けた。
だけど、一歩病室に入った瞬間に飛び込んできた景色と異臭に僕は言葉を失った。
大きな機械が何台も君のことを囲って、『ピッ……ピッ……』と電子音が響いている。
色々な管に繋がれた君の姿は、記憶の中にあるものとは随分と違っていた。
真っ白な包帯でぐるぐる巻きになった頭には髪の毛が無い。
瞼も手も足もピクリとも動かなくて、呼吸の様な空気の音だけがしている。
なんで……? 意識が戻ったっていうのは嘘だったの……?
今日はピースもしたんだよって、そう言っていたのは全部嘘だったの?
だって、だって!
君は一度も動かなくて、目を覚ます気配すらないじゃないか……!
嘘つき!!
気付けば僕は、病室から飛び出していた。
それからは君の元へ行く気になれなくて、いくのがどうしようもなく怖くて、僕はずっと病室から少し離れたところに居た。
今思えば、もっと君に声を掛けていれば良かったのかもしれない。
次から次へと君の元へ訪れる人たちを眺めていないで、君の隣に居ればよかった。
それから少しして、夜中、僕は布団の中で君が息を引き取ったことを知った。
君が倒れたあの日から、僕の前で君の意識は戻らなかった。
なんなんだろう、これは。
どういうこと?
久しぶりに帰ってきた君は置物のように動かない。
現実味が無くて、僕はずっと起こったことを理解できないでいた。
君が死んだと、もうこの世に居ないのだと認めたくなかっただけなのかもしれない。
現実味がないまま慌ただしい日々が過ぎていく。
寒い寒い冬の日で、夜には雪が降っていた。
雪が好きだった君が、最期にどうしても雪をみたかったんだと、そう思った。
全てが終わった後、僕は一週間ずっと部屋の片隅に居た。
何もかもが終わって初めて、もう二度と君に会えないのだと認めてしまったのだ。
う……ッ、うぅ……うあ……ッ!
どうして……どうして!
どうして、君は居なくなってしまったの……ッ?
あの時、もっと早くに君のことを見つけていたら、君は居なくならずに済んだの……?
いやだよ……会いたいよ……!
もう一度、僕の名前を呼んでよ……ッ!
もう一度、君の声が聞きたい……
帰ってきてよ……もっと、僕とお話をしようよ……ッ!
これから先、君としたいことが沢山あったんだ……
君と、見たいものが……ッ、君に見せたいものが、たくさんあったんだよ!
なんで、なんでなんだよ……ッ
どうして君が、いなくならないといけないんだ……ッ!
どうして、もう二度と……君に、会えないんだ……ッ!
うッ……うぅ……
それから長い年月が過ぎて、僕はすっかり年を取った。
君の声はもう思い出すことが出来ない。
遺影を見て顔は知っているけれど、君の姿がどんなだったのかももう分からない。
我ながら薄情だと思う。
君のいない日々はすっかり日常になってしまった。
だけど時折、胸を締め付けるような痛みが消えないんだ。
きっと、二度とこの傷が癒えることは無いだろうね。
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