戦争に喝采すること : 〈桑原甲子雄〉像の作られ方

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 桑原甲子雄といえば、写真に対する純粋な無償性を――ただ撮りたいから撮る、という尊きアマチュア精神を象徴する写真家として知られている。すでに指摘されているように、写真というメディアそのものへの疑いが深まった1970年代において、写真表現の純粋性を証明するものとして人びとを惹きつけたのが、桑原が戦前に撮りためた作品群だった。
 ただし、そうした理想の写真家を体現するものとしての〈桑原甲子雄〉像は、彼の別の側面を見えづらくもする。例えば、戦時下における桑原の動向もその一つである。

 1974年、桑原にとって初めての写真集『東京昭和十一年』が刊行された。その巻末に寄せたエッセイ「おぞましい記憶」の中で、彼は自身の戦争体験をこう綴っている。

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