手紙 | 消印、ジャカルタ中央郵便局
みなさん、大変ご無沙汰しております
お変わりないでしょうか
私は今、ここインドネシアの首都ジャカルタの、中央エリアにある高層ホテルの一室でこの手紙を書いていて、時刻は夜、窓の外はこの国特有の雨季のまるで世界の終わりのような激しい雨が、今夜も間断なく降り注いでいます
来週、11月9日(土)から再びこのnoteに本格的に復帰するにあたって、いきなり唐突に記事を、しかも長編の連作を無言のまま順次上げていくよりも、今日は少し時間ができたこともあり、このホテルのライティング・デスクでぼんやりとジャカルタの夜景でも見ながら思うがままに筆をとり、このnote上で長い間親しくさせて頂いているみなさま宛てに短い手紙を書き、改めて正式にご案内させてもらうのが礼儀なのかと、ふと、思い立った次第なのです
手紙 | 消印、ジャカルタ中央郵便局
ここジャカルタに来た理由は、私の日本の友人夫妻がビジネス目的で東京から来ており、久しぶりの再会を果たすために事前に綿密に打ち合わせ、最終的に奮発して高層ホテルのラウンジ無料利用プランを取り、そこでゆっくり酒でも飲みながら、お互いの積る話でもしようかと取り決めておいたのです
その友人はわたしよりもかなり年嵩で、正確な年齢は実はこれまでに聞いたことがないのですが、間違いなく五十代の中頃で、以前の英語留学先のセブ島の学校での、同じ宿舎で暮らして学んだ「同級生」でもある人物なのです
この友人とは卒業後も往来があり、主にわたしが東京へ行った際には自宅に泊めてくれたり、彼の奥さんも一緒に銀座や国立にお寿司やドイツワインを飲みに行ったりと、ささやかな交流が今でも続いていて、何よりこの友人は
少なくともこのわたしにとっては興味が尽きない、面白い友人なのです
この友人はわたしたちが知り合った時点では、ヨーロッパに巨大な資本を持つ医療機器メーカーに約30年間勤めあげていて、その会社の営業部長の役職に就いていたのですが、数年前にそこを退社し、自分で同様の医療機器を輸入販売する会社を立ち上げている経緯があるのですが、ここまでであればはっきり言ってどこにでも転がっている話であるはずです。ぼくがいる家具製造の世界でもよく割とよく聞く話でもあり、おそらくはみなさんの周りにもそうして独立された方というのは、やはり一定数はいらっしゃるのでしょう
しかしこの友人の、あくまでわたしが個人的に面白いと思えるところは、不謹慎を承知の上で書くと、何とその古巣の会社から独立直後、実際に法的に訴えを起こされたという、いささか不気味で不可解な経緯があるのです・・
約30年も勤め上げた会社、それはつまり、あくまでわたしの感覚ではもはや「家族」にも近しい、苦楽を共にしてきた濃密な年月のように思え、そこから法的に訴えられるとはいったいどうしたことなのでしょうか。少なくともわたしは、これまで聞いてきた数ある「独立話」の中でも、ちょっと聞いたことがない類の話でもあるのです。もちろん、ある程度の範囲まではわたしも推測することはできるのですが、いったい何が起こったのでしょう・・・
その詳細については以前から気にはなってはいたのですが、いかんせんお互いに、いわゆる働き盛りの世代で忙しく、いつかゆっくり時間をとって東京まで会いに行き、どこかで酒でも飲みながらじっくり語ってもらおうと思っていたのですが、これまでそうした機会を作ることができなかったのです
しかし、わたしがここインドネシアに赴任する前、つまり今から三年前の秋には一度だけその友人からこのようなメッセージを受けたことがありました
儲かって仕方がない
それから、福岡ー東京の往復航空券と滞在費は全部出すから一度遊びにおいでよとは誘われていたのですが、わたしは当時インドネシアへの赴任の準備に忙殺されていて、それがどうしても叶わなかったという経緯があるのです
いや、もしも当時、仮に時間があったとしても
わたしはきっと東京へは行かなかったでしょう
この二年間、このnoteで、ときに自分の内面深くから浮かび上がってくる遠い記憶や、強い想いを稀にひとつの記事として書くようになってから、尚更鮮明に浮き彫りになってくることのひとつに、すでに成功し、完成されてしまった人にはほとんど興味が持てないという明白な事実があるだけなのです
もちろん厳密に言えば、完成された人などは、あるいはこの世界には存在しないのかも知れませんが、そうした人々は、あくまでわたしの視点では引き続き自由に好きにさせておいて、そして放っておいてもよい人たちなのです
加えて、起業して売り上げが伸び利益が増大しただけでは「成功」とは必ずしも言えないのかもしれませんし、人によってその尺度は異なるのでしょう
確かに私にも若い頃はそうした人にこそ興味があり、まるでその後姿を追いかけるような時期もあったのでしょうが、全ては実体のない幻影だったと人生のある時点で気がついたときに、それは、一気に反転してしまったのです
そして逆に尽きない興味があるのが、まるで敗色濃厚、四面楚歌、絶体絶命の窮地でもがく者たちで、それは年齢には一切関係なく、絶望的な状況下でも何とか知恵と体力を使って活路を見出そうとし、その過程で避けて通ることができない死地で、孤軍奮闘で必死に戦う者こそが、心を震わせることができ、僕等の人生について多くを物語っているように思えてならないのです
そして私がここインドネシアに赴任してちょうど一年が過ぎようとしていたときに、再びその年嵩の友人から、このようなメッセージを受けたのです
円安でふーふー言っています
その友人は医療機器をドイツと中国から直接、個人で輸入しているので、現在までに続くこの果てしない円安の大きな影響に直撃されているのでしょう
このときは逆に会いたいなと思い、これまでの紆余曲折と悪戦苦闘のエピソードを、こうした不穏な経済が覆い尽くす暗い時期に、彼から聞かせてもらおうと思うも、しかしいかんせん、スマランから東京は距離がありすぎます
だから次回の一時帰国の際は、復路を東京ージャカルタに変更してちょっと会いに行ってみようかと思っていた矢先に、今夜、その友人の方からここジャカルタで開催されている、世界的な医療機器の展示会に視察と商談に来るから、もし都合がつけばジャカルタで再会しようと連絡を受けていたのです
ちょうど今、その友人からLINEが入りました
これから会場を出るので、後、二十分ほどでホテルに着きます
その展示会とはここ中央ジャカルタのコンベンション・センターで開催されていて、ぼくも今日の昼間ホテルにチェック・インの前にタクシーで通過してきましたが、この雨のジャカルタではニ十分ではとても着けないでしょう
なにしろここは”世界最悪の交通渋滞”の大都市の、その心臓部であるのです
初めてこの地に来る者を皆すべからく、時間的に容易に裏切り
予定を切り裂いてしまうのがこの国の首都なのです
つまりまだ、この手紙を書く時間的な猶予があるということなのでしょう
来週から約半年ぶりにこのnoteに本格的に復帰するつもりでいます
記事はすでに大部分を書き上げていて
一本あたり、過不足なく全てを約一万字で調整しています
今年は、非継続的に記事を書いて僅かながら公開してきましたが、常に考えさせられたのが実は「字数」で、もちろんそれは「内容」に対してはあくまで副次的な問題でしかないというのは重々承知しているのですが、いったいどの程度の「字数」であれば、ある程度ヴォリュームを持たせて、みなさんに楽しんで頂けるかを模索し続けていた一年であったようにも思えています
もちろん、「字数」は読み手の方次第では「長すぎる」、「短すぎる」の判断は綺麗に分かれるのでしょうが、ひとりの書き手としては起承転結を明瞭にしやすく、しかも、必然であれ偶然であれ、記事にアクセスして頂いた方を何とか最後の一行まで「連れて行く」のは、noteを始めて満二年を迎えてもはやゲーム感覚では決してなく、真剣勝負で、だから随所に創意工夫を散りばめ、内容に関しても切り取ったシーンやその角度を何度も推敲を重ねてこちらとしてもいわゆる「創作の楽しみ」を十分に味わうことができました
来週からは、数年前にわたしが中学の女性の同級生を訪ねた、スイスのチューリッヒという古都を舞台にした長編ノンフィクションを連載していきます
当時、一眼レフで撮影した膨大な数の写真データと、そのキャプションに記しておいた言葉の断片、そして当時のSNSの記事を基に構成し直した紀行と恋愛の要素が濃い連作で、特に後者を全面に押し出した記事はこれまでほとんど書いていなかったので個人的には新しい試みと言えるのかも知れません
現在、すでにそれを七本書き上げているので、これから年末に向かって毎週土曜日の朝7:00に、自動投稿の機能を使って機械的に公開していく予定です
本来の予定では年末にちょうど完結させて、来年度は新しい連作の準備も進めているのですが、やはり仕事をしながらこのnoteに全力投球するには、わたしはただの一介の素人に過ぎず、中途半端に年を跨ぐ形にはなってしまいますが、来週からぜひ皆さまに楽しんで頂ければと思っている次第なのです
そうこうしているうちに、友人がこのホテルに着いたと連絡が入りました
これからシャワーを浴びて17階にあるラウンジに移動しなければなりません
いったい、どのような話が聞けるのでしょうか
外は雨脚が激しくなってきたので、恐らくは今夜はホテルを一歩も出ずにラウンジと地中海料理がメインのレストランで再会を楽しんでくるつもりです
ジャカルタにいながら、地中海料理とは妙な組み合わせでもありますよね
では最後に来週からの記事の告知をさせて頂き今回は筆を置こうと思います
そして来週の土曜日から本格的に復帰した際は、みなさんのこの半年間の
作品も遡って拝読させて頂きますので、またそこでも再会できるはずです
本当に楽しみにしています
告知
2024年11月9日(土) 日本時間 AM 7:00
レイク・チューリッヒ | 01
真冬の青空、沈みかけていた飛行船
2024年11月16日(土) 日本時間 AM 7:00
レイク・チューリッヒ | 02
古城への坂道、湖畔の月
2024年11月23日(土) 日本時間 AM 7:00
レイク・チューリッヒ | 03
ラッパーズ・ウィル、無人の大聖堂
2024年11月30日(土) 日本時間 AM 7:00
レイク・チューリッヒ | 04
輪舞する、旧市街
2024年12月07日(土) 日本時間 AM 7:00
レイク・チューリッヒ | 05
アルトシュタットの迷宮
2024年12月07日(土) 日本時間 AM 7:00
レイク・チューリッヒ | 06
吹雪に欠けた、青い月
2024年12月21日(土) 日本時間 AM 7:00
レイク・チューリッヒ | 07
太陽を浴びていた午後
2024年12月28日(土) 日本時間 AM 7:00
レイク・チューリッヒ | 08
赤と黒のフラッグ、帝国水晶の夜
状態/執筆中
2025年1月04日(土) 日本時間 AM 7:00
レイク・チューリッヒ | 09 |完結
夜の長距離バス・ターミナル
状態/執筆中
2025年1月11日(土) 日本時間 AM 7:00
長いあとがき
状態/執筆中
では
また
2024年11月2日
ジャカルタ
Yukitaka Sawamatsu