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地下アイドルのファン数予測をマルコフ連鎖で徹底解析
1. はじめに
1.1 なぜファン数予測が必要?
地下アイドル運営では、
• どのくらいの人がライブに来るのか
• どのくらい売上が上がるのか
• 今後ファンが増えそうか、減りそうか
を把握しておくことがとても大切です。
しかし、ファンの増減は「運」や「感覚」だけでは計りづらい部分があります。そこで、確率モデル(マルコフ連鎖)を使って、客観的にファン数をシミュレーションしてみよう、というのが今回のテーマです。
1.2 本記事で扱う内容
1. マルコフ連鎖(Markov Chain)と行列の基礎
2. ファンの段階(ステージ)の定義と確率の設定方法
3. 仮想データを使ったシミュレーション例
4. 立ち上げ当初 / 活動中期 / 活動安定期 それぞれのシミュレーションの違い
5. ファン数予測に必要なデータ項目と実際の活用ヒント
途中、数学的な説明をしますが、なるべくわかりやすく丁寧に解説していきます。
2. マルコフ連鎖の基礎知識
2.1 マルコフ連鎖とは
おさらいですが、
マルコフ連鎖は「今の状態だけを見て、次に行く状態が確率的に決まる」モデルのことです。
• 地下アイドルのファンの状態を、「まだ興味がない」「ちょっと興味がある」「ライブによく行く」などに分けて、そこをどう行き来するかを確率で表す、というイメージです。
•簡単な例:
• 「ライトファンのうち、翌月にリピートファンになる確率は10%」
• 「未認知のうち、翌月に興味をもってくれる確率は2%」
• こうした確率の集まりを行列にすると、将来の分布を計算できます。
2.2 行列(遷移行列)のイメージ
マルコフ連鎖では、遷移行列(Transition Matrix)という表を使って、「状態  から状態  へ移る確率」を管理します。
たとえば状態が3種類(A, B, C)だけだとすると、
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/175028675/picture_pc_d9524f8158e2661f984b74f79d532d85.png?width=1200)
のような形になります。各行の合計が1になる(確率だから、全部足すと100%)というのが特徴です。
つまり
• p_{XY} は、「今の状態 X から、次のタイミングで状態 Y に移る確率」を意味します。
•たとえば:
• p_{AA} は、「状態 A にいた人が、次のステップでも A に留まる確率」
• p_{AB} は、「状態 A にいた人が、次のステップで状態 B に移る確率」
• p_{CA} は、「状態 C にいた人が、次のステップで状態 A に移る確率」
です。
例えば、「地下アイドルのファンの状態」を3つのカテゴリーに分けたとします。
• A = 未認知(アイドルを知らない人)
• B = ライトファン(SNSをフォローしている、時々ライブに行く)
• C = ロイヤルファン(ほぼ毎回ライブに行き、グッズも購入する)
このとき、次のような遷移確率を仮定できるとします:
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/175029330/picture_pc_5d755df99cdebb82fb9a406d2ea63a9f.png?width=1200)
この行列の読み方:
• A(未認知)にいる人の 80% は次の月も未認知のまま、15% がライトファンになる(関心を持つ)、5% はいきなりロイヤルファンになる。
• B(ライトファン)の 10% は未認知に戻る(興味を失う)、70% はライトファンのまま、20% はロイヤルファンに移る。
• C(ロイヤルファン)の 90% は次の月もロイヤルファンのまま、2% は未認知に戻る(離脱)、8% はライトファンに戻る(少し熱が冷める)。
2.3 状態ベクトルとの掛け算
「状態ベクトル」というのは、各状態にいる人数(あるいは割合)を並べたものです。
• たとえば、A=100人, B=200人, C=700人 なら、ベクトルは【100,200,700】 。
• 遷移行列 P と掛け算すると、翌月にA, B, Cが何人ずつになるかが計算できます。
数式で書くと、来月の人数 = 今月の人数 × 遷移行列 という感じです。
3. ファンの段階を定義する
地下アイドルのファンを、今回の例では以下のように分けます。
1. 未認知 (U):まだこのアイドルを存在すら知らない。
2. 関心 (I):SNSや噂などで知っているけれど、ライブには行っていない。
3. 初回参加 (T):ライブや配信を一度見てみた(TrialのT)。
4. ライトファン (L):SNSフォローしたり、時々ライブに行く。
5. リピートファン (R):何度もライブに行き、グッズやチェキにもお金を落とす。
6. ロイヤルファン (X):ほぼ毎回行く。CD・グッズも全買い。まさに“推し”に全力。
7. 離脱 (D):ファンだったが、今は興味を失ってしまった。戻るかどうかは別途確率次第。
もちろん、こんなに細かく分けなくてもいいですし、離脱をあえて入れないモデルもあります。
しかし今回の例では、仮に7状態用意して、そこを行ったり来たりするモデルを考えます。
4. 仮想データ:転換率(遷移確率)の例
では、具体的な「月ごとの遷移確率」を仮定してみましょう。
前提:ちょっと極端な数字を混ぜて、わかりやすくしています。
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/175030305/picture_pc_af9962ff70636e2ef5eb221d47ba3cd8.png?width=1200)
• 行(左側)が「今の状態」、列(上側)が「次の状態」へ移る確率。
• 各行を足すと1(100%)になります。
• 例:「関心(I)」にいる人は、70%が関心のまま、20%が初回参加に進み、5%が再び未認知へ戻ってしまう(忘れる)とした設定。
• 離脱(D)に行った人は、そのまま離脱状態に留まる(1.0)とし、今回は「復帰しない」モデルで仮定しています。
5. シミュレーションの手順
5.1 初期状態の設定
まずは今、各状態に何人いるかを定めます。
仮に「とあるエリアに合計5万人」がいて、うち…
• 未認知(U): 48,000 人
• 関心(I): 1,000 人
• 初回参加(T): 300 人
• ライト(L): 200 人
• リピート(R): 100 人
• ロイヤル(X): 50 人
• 離脱(D): 350 人
という状況としましょう(あくまで仮の数字です)。
5.2 初期ベクトルの作成
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/175030819/picture_pc_7791551d500b83310ff1b54c9f4f8bab.png?width=1200)
5.3 月ごとの遷移の計算
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/175030983/picture_pc_bfad82347288d6782cf581eccd18e9e8.png?width=1200)
コンピュータで計算すれば簡単ですが、ここではイメージが重要です。
5.3.1 1ヶ月後を計算する(例)
ここで、数値を一部だけ例として計算してみます(全行列演算は長くなるので省略)。
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/175031207/picture_pc_62c9edee42601e566b8663f8ed1c3b33.png?width=1200)
• 同様に、「関心(I)」や「初回参加(T)」なども各行列成分ごとに掛け算し、足し合わせます。
このようにして、1ヶ月後に各状態が何人になるかを一括で出せるのが行列の便利なところです。
5.4 長期的な推移
• 2ヶ月後 (v2)、3ヶ月後 (v3)…と計算を繰り返すと、どの状態がどのくらい増減していくかをトレースできます。
• 多くの場合、「離脱(D)」が徐々に積み上がる一方で、「リピート(R)」「ロイヤル(X)」が安定してくる様子が見えてきます。
• もし「再び離脱から復帰する確率」を設定したい場合は、上記の遷移行列に「D→他の状態」の数字を入れればOKです。
6. 活動ステージ別の活用例
6.1 立ち上げ当初のシミュレーション
•特徴:ほぼ全員が未認知(U)。関心(I)も少ない。ライブ来場者(T)もごくわずか。
•施策:SNS広告やコラボ企画で「未認知→関心」を引き上げられるかどうかがカギ。
•モデルへの応用:
• 「SNS広告費を○円増やすと、未認知→関心の確率が0.08 → 0.12に上がる」といった仮定をして、行列のその部分を変えてシミュレーション。
• 3ヶ月後にどうなるか、6ヶ月後にどうなるかを比較し、どれだけ投資に見合った効果が見込めるかを見る。
6.2 活動中期のシミュレーション
•特徴:初回参加(T)やライト(L)ファンが少しずつ増えてきたが、リピート(R)やロイヤル(X)は少ない状況。
•施策:ライブのクオリティや物販の魅力を上げて、「ライト→リピート」「リピート→ロイヤル」への転換を増やしたい。
•モデルへの応用:
• 行列の「L→R」「R→X」の確率を何%上げられるかを想定し、長期的にどのくらいロイヤルファンが増えるか試算する。
• 初回参加(T)の離脱率も重要。TからD(離脱)に行かないよう、ライブ後のSNSフォローを促す施策を考えるなど。
6.3 活動安定期のシミュレーション
•特徴:ロイヤル(X)が一定数おり、リピート(R)もそこそこ多い。知名度もそこそこある。
•施策:新しい楽曲リリースや外部コラボで更なる拡大を狙うか、既存ファンの離脱を防ぐか。
•モデルへの応用:
• 離脱(D)に行く確率をどう下げるか。特にロイヤルファンやリピートファンの離脱率を引き下げる施策がROIが高いかもしれません。
• 逆に「未認知→関心」をもう一段アップさせる施策(テレビ出演や他グループとの対バン)を試して、更なるファン増を狙う。
7. ファン数予測に必要なデータ項目
1. 各ファン段階の定義と、今の大まかな人数
• 「ライトファンが何人くらいいるか」など、ざっくりで良いので数を推定する。
2. 月ごと(または週ごと)の転換率(遷移確率)
• 「未認知から関心への移行」「ライトファンが離脱する確率」など、どれだけ正確に計れるかで予測精度が変わる。
• ライブ来場データやSNSフォロワーの新規獲得率、物販購入履歴などを総合的に集める。
3. 期間・頻度
• 1ヶ月単位で計算するのか、2週間ごとに見るのか。グループの活動ペースに合わせて。
4. 施策にかけるコストと期待される効果
• SNS広告、外部コラボ、ライブ会場の規模などによって、「どの段階の転換率を上げるか」を明確にし、行列の該当部分の数字を変える。
5. 売上指標(1人あたりの平均支出)
• ファン数が増えても、ライトファンとロイヤルファンでは1人あたりの売上に大きな差がある。
• ROI(Return on Investment)を計算する際は、「状態 × 平均売上」で大まかな予測ができる。
8. 少しだけ数学的な根拠:定常分布と収束
8.1 行列を掛け続けると落ち着く可能性がある
マルコフ連鎖の理論では、状態の遷移確率が一定で、全ての状態間の行き来が可能(不可約)な場合、長期的にはどんな初期分布から始めても「定常分布」という安定した割合に近づくことが知られています。
• これをペロン=フロベニウスの定理などを使って証明できますが、細かい数式は省略します。
• 地下アイドルの場合、実際には「大ブレイクが起きる」「メンバーの卒業」などイレギュラーが多いので、あくまで“理想的な”話ですが、モデルを回し続けると、最終的に各状態に一定の割合で落ち着くこともあり得るというイメージです。
8.2 ステップごとの収束が違う場合
• 「未認知→関心」の確率を施策で頻繁に変えると、行列自体が時間ごとに変化します。これを非定常マルコフ連鎖と呼び、単純な定常分布は使えません。
• その場合でも、各タイミングの行列を掛け合わせていくことで、シミュレーションは可能です(モデルは複雑になりますが)。
9. まとめ:データと感性の融合を目指そう
1. 数値で見るメリット
• ファン獲得施策の効果をある程度予測できるので、「どこにお金や時間をかけるとリターンが大きいか」が把握しやすい。
• 特に「ライト→リピート」や「リピート→ロイヤル」の確率が上がる施策が収益的には大きい、などの示唆が得られる。
2. 数値だけで語れない部分も大切
• アイドルの魅力やファンの熱量は、モデル化しきれない部分があります。
• あくまで数値は「決定を助ける目安」。最後はメンバーの魅力やファンコミュニティの空気感も踏まえて意思決定すると◎。
3. まずは簡単なモデルから始める
• 「未認知 / ファン / 離脱」の3状態だけ、など単純化して始めてもOK。
• 徐々に状態や確率を細かくしていくと、よりリアルなシミュレーションができるようになります。
終わりに
マルコフ連鎖を使ったファン数予測は、一見「難しい数学」と思われがちですが、本質は『いま何人がどの状態にいて、どう次の状態へ行くか』を確率で考えるだけです。
• 立ち上げ直後:まずは「未認知→関心」向上を狙った施策シミュで、今後のファン見込みを把握。
• 活動中期:ライトファンをリピートやロイヤルに育てる施策の効果を試算。離脱率も気にする。
• 安定期:より大きなブレイクを狙うか、ファン維持を徹底するか、複数シナリオを試し、施策のROIを数値で比較。
最終的には、「モデルの数字×運営者の知恵と感性」で最適な判断ができると、地下アイドル事業はより安定かつ面白いものになっていくはずです。ぜひ、本記事の例を参考にして、自分たちのグループに合った数値分析を始めてみてください。