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たとえ不謹慎だと言われても、愚かだと指さされても、私は待てずに駆け出した。

いま、新幹線に乗っている。
だからなんだとあなたは言うかもしれない。私は、たくさんの県境をまたいで会いたい人にあいにいく。

1か月前から、決めていたことだった。
その時にはもう既に感染症も蔓延していたし、日本は緊急事態宣言の真っ只中だった。

会いたい。会いたくてたまらない。声だけでも心の7割は満たされるけれど、残りの3割は手を繋いで、抱きしめないときっと満たされない。
それでも時期が悪いと笑うしかなくて、私の力ではどうにもならない現状にナイフを投げて切り裂いてしまいたかった。

緊急事態宣言が解除されて仕事も通常通りになった。私の住んでいる地域はいわゆる都会に近いけれど、新規の感染者数は少ない。人と会う仕事をしている私も、マスクと消毒をしながら普通通り働いている。

仕事が良くて、なんでプライベートはだめなの?とわがままを言うつもりは全くない。リスクはリスクだし、感染拡大を防ぐためには人と会わないことが1番だ。

それでも、会いたい人がいて会わなければ心が死んでしまうと思った。

1ヶ月や2ヶ月、恋人に会わなくたって死にはしないでしょ?

会わないことで命を落とすことはない。今まで通りなだけだ。それでも、会いに行ける手段があって、会いに行ける時間があって、会いたいという思いがあって、全部そろっているのに我慢なんてできない。

知っているよ。これが他人からすれば不要不急の外出だって。それでも、私の中では必要なことなのだ。

新幹線の乗客は少なくて、期せずしてソーシャルディスタンスが保たれている。仕事で移動している人もいるのだろう。私の務める会社も、新幹線や飛行機を利用しての出張が解禁された。

テレワークが終わって移動ができるようになって、わざわざ移動してまで行わなくてよかった仕事を移動してやるようになったんだから、恋人にくらいあわせてくれ。
温もりを感じ合わなくても構わない仕事と違って、私には彼の温もりがないとダメなんだ。

会いに行くためにお金が無いなら稼げばいい。時間がないなら作ればいい。幸いにして、ありあまるほどはなくても私は十分に持っている。

この前、街で洋服を買っただけで心が満たされた。直接人と会って話をするだけで、じゃぶじゃぶと音をたてて心が潤っていく。きっと私は、外に出ずにはいられない人間なのだ。

普段から休日は家に引きこもってだらだら過ごしているけれど、それでも平日はあちこち飛び回っている。それが楽しいかと言われれば微妙かもしれないけれど、それでもずっと閉じこもっていられる人間では無いのだろう。

梅雨の晴れの日。白い雲が青を飾る気持ちのいい空。私と彼が会うハレの日にはぴったりだ。

久々の遠出に心が踊る。新幹線の窓からは、きれいな富士山が見える。
あなたに会いに行けることが嬉しい。もう、場所はどこだっていいのだ。ただ行けることが嬉しい。

県境をまたぐ移動が解除された。それでも、自粛しろと私を指さす人はいるだろう。好きなだけいえばいい。石を投げればいい。血みどろになったって、私は私の幸せを手放しはしない。


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