日ようのともだち
幼い頃、我が小学校にも転校生が時々やって来た。自分たちの縄張(なわば)りの中に、突然、物(もの)の価値観が違う感じで、異分子が混じって来るのだ。教壇の先生の横で初めて挨拶する転校生たちの背中には、なんだか後光(ごこう)が差している感じがした。特に東京から転校して来た女の子はよくモテたような気がする。見たことのない大都会から引っ越して来たらしいが、なんだか垢(あか)抜けしていて目立っていた。大阪から転校して来た男の子はイントネーションが関西弁で苗字(みょうじ)もここら辺りでは見ないもので何か奇異(きい)な者をみる感じで最初は馴染めなかった。こいつ、結構色々な音楽を聴いているな、なんだか洒落(しゃれ)ていると思っていたそのともだちも、小学校低学年の時に、どこかからか転校して来た転校生の一人だったように思う。
そのともだちに、自分が当時仲良くしていたともだちを取られてしまったのだ。(笑)なにクソ!と、ともだちを取られないように頑張ったのだが、だんだん、その仲良くしていたともだちは向こうに行ってしまった。(笑)そのせいで、そのともだちのことをあまり内心よく思っていなかったのだが、学年を重ねる内(うち)に、そのともだちとも仲良くなってきて音楽の話をするようになった。
音楽好きの兄貴(アニキ)の影響で、自分の知らない音楽を聴いているようだった。TVの歌番組に出ている歌手しか知らない自分を馬鹿にするのだ。特に、真っ黒なサングラスをかけてリーゼントで革ジャン着て歌う、”所ジョージ”という歌手の歌がいいのだという。革ジャン、リーゼント、サングラスというのは、当時、宇崎竜童(うざきりゅうどう)しかいなかった。その宇崎竜童すら自分にとっては刺激的で、”アンタ、あの娘(こ)の何なのさ?”という当時流行ったセリフを聴いただけでも、何て大人(おとな)なんだろう!!こんなセンス、子供の自分にはわからないよ!と思っていたのに、所ジョージの歌を聴くとそれに拍車をかけて、変な歌を歌っている。ダジャレの歌をアコギでジャカジャカ弾き語っているだけなのに、、、これが大人のセンスなのかと思い、自分は負けている、こいつセンスいいなと思ってしまい、真似(まね)して、よく考えずに所ジョージのデビューアルバムを買ってしまったのであった。
真似して買ったことが恥ずかしかったので、内緒にしていたのだが、何かの拍子でそのともだちにバレてしまい、そのともだちの自分に対する軽蔑(けいべつ)の眼差(まなざ)しが嫌(いや)だった。
自分には音楽の才能がない!
自分には音楽のセンスがない!
大人となった未(いま)だに、こう思ったりもするのだが、いや、才能やセンスだけじゃない!うまく説明できないが、もっと違う力(ちから)がはたらいているんだ!とも未だに思っている。
そのともだちの家にも何度も遊びに行っているのだが、高校生の時だか行った時にはエレキギターを持っていて、ステレオからかかる音楽に合わせて練習しているのだと言う、洋楽ばかり聴いているので、何を歌っているかわからない、英語を勉強したいみたいなことを言っていて、”どんな音楽聴いているのよ?”と尋ねると、レコードをかけてくれた。アメリカンロックだ〜!"TOTO"だよ、"TOTO"、知らないの?”と、また軽蔑の眼差(まなざ)しを向けてくる。
”トートー”だろ、”トートー”。
”トートー”くらい知ってるよ。まるで便器みたいな名前だな、変なバンド名。
と答えたところ、”トートー”じゃなくて、"トト"だよ"トト”!!軽蔑の眼差しを通り越して、哀れみの視線を送ってくる。スティーブ・ルカサーのギターソロをコピーしているとか何とか言っていた。
”トートー”だろうと”トト”だろうと、そんなものどっちだっていいんだ!!その時ばかりは癪(しゃく)に障(さわ)った。(笑)
そのともだちの家に初めて遊びに行ったのは、小学生の時で、家には誰もいなかった。”何にも無いけど、これでも食べて。”と出されたのが、缶に入った今で言うマカデミアン・ナッツだった。
こんな美味しいチョコレート食べたことがない!!
と言うと、何だか自慢げに、”それ、父親がハワイに行った時のお土産(みやげ)なのよ。”と、涼しげな顔をされた。今、思えば、このマカデミアン・ナッツを食わせたいばかりに自分を家に呼んだのかとも思う。(笑)父親は船のタンカーの船員で、1年中世界の海を回っていて、家に戻ってくるのは年に数回しかないのだと言う。父親のその仕事の関係で、この街の学校に転校して来たとか何とか、もう昔の話なのでうる覚えだが言っていたような気がする。
今、会ってもたぶん性格は変わってないのだろうな。(笑)ただ、そのともだちが世界の海を渡り歩く自分の父親のことを、子供心にすごく自慢で、尊敬しているのだろうということは理解できた。
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