月ようのともだち
そのともだちはいじめられていた。クラスの中で一番痩(や)せているのだ。その次が自分だった。二人とも手も足もガリガリで、ガリガリコンビと言われた。自分は普通の子供顔だったのだが、そのともだちは多少、老(ふ)け顔で、
”じじぃ!”
とか
”骨!”
とか言われ、いじめられるのだ。
休み時間になると、いつも男の子はみんなで教室を出て廊下で相撲(すもう)をとり、そのともだちは痩せてパワーも無かったので、みんなから投げ飛ばされたりしていた。子供は残酷で手加減しない。自分もそのともだちと相撲をとると、結構いい勝負になるのだが最終的にはいつもぶん投げて勝てた。
ある日、そのともだちと机を並べることになり観察すると、そのともだちはいつも先生の話を聞かずにノートに漫画ばかり描いている。何だ自分と同じだと思い、親近感がわいた。自分もいつも授業がつまらないので、教科書やノートのふちに漫画ばかり描いていたのだった。(笑)
少年ジャンプ(日本で一番有名な漫画雑誌)を立ち読みし、漫画家になろうと決心し(笑)、手塚賞(その当時、少年ジャンプで半年に1回作品応募があった、漫画家になるための登竜門コンテスト)に応募しようとGペンとか買ってもらって、いざインクをつけて描き出すと何だかストーリーがどこかで読んだことがあるようなものしか思い浮かばない。登場人物もどこかで自分の好きな漫画家の真似(まね)をした感じになっている。。。そして何より、”手”が描けないのだ。5本指の”手”を細かくと言おうか、上手く描けないのである。う〜む、どうにかして”手”を描けるようにしなければいけないと思っていた時期と重なって、そのともだちと仲良くなってしまったのであった。
そのともだち”じじぃ”は漫画が上手(じょうず)だった。自分のように格好つけて描いてるわけではなく、上手いようでいて下手、下手でいて上手い!(笑)感じで、何だか自然体なのである。そして発想も何だか自由なのだ。自分の頭の中で、空想のオリジナルのプロ野球球団を作ったりなんかしていて、選手たち一人、一人も、実に個性があって、面白味がある。自分も対抗しようと、自分だけのオリジナル球団を作ってみた。しかしながら、全部その”じじぃ”の漫画のパクリになってしまっていて、何だかワザとらしい。
そして、とうとう、その”じじぃ”は自分の空想の町まで作ってしまっていて、ノート一面に描かれているその町を見せてもらった時には、”こいつホント漫画が上手いな〜!”と思ってしまった。試しに自分も同じように自分の町を空想して描いてみたのだが、全然違うものになってしまう。自分の頭に描いた町はこんなみすぼらしい、夢のない町なんかじゃないんだ!本当はもっといい町なんだ!と思うのだが、”じじぃ”のように描けないのである。それで自分には漫画を描く才能がないとわかり、漫画家をあきらめてしまったのであった。(笑)
”じじぃ”の家に一度だけ遊びに行ったことがある。誰もいなかった。暗い部屋の奥には、鉄道模型のレールが所狭しと敷かれていた。鉄道模型が好きだと言う。親の話はしてくれなくて、婆(ばあ)ちゃんに育てられていると言っていた。小学生の時だけ一緒だったのだが、その後はクラスも学校も別々で話すことも無くなった。。。風の噂では高校を退学して、髪の毛にアイパー(古いな!)をかけてヤンキーになっていると聞いた。その後は名古屋に行ったという。
"ともだちがほしいよ”音楽配信中!聴いてみませんか!?