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「超」AI整理法 無限にためて瞬時に引き出す(はじめに)

はじめに

 AI(人工知能)が、さまざまな新しい可能性を開きつつあります。例えば、自動車の自動運転などです。これによって、多くの人々が大きな影響を受けることは間違いありません。
 しかし、それらの技術を利用して事業を展開するのは、企業、とりわけ大企業です。
 ところが、最近では、この技術を個人も使えるようになってきました。AIによる音声入力機能や画像認識機能などをスマートフォンで利用できるようになったのです。
 これまで、人間がコンピュータを操作するには、キーボードから入力するしか方法がありませんでした。これは、面倒な方法でした。
 自然言語やカメラの画像という形でコンピュータへの入力が可能になると、人間とコンピュータの間のインターフェイス(界面)が大きく変わり、コンピュータの利用可能性が一挙に拡大します。これは夢の技術とも言えるものです。
 この技術が利用可能になったのは、ごく最近のことです。音声入力をスマートフォンで用いることができるようになったのは数年前のことですし、一般の人々が画像認識機能を利用できるようになったのは、わずか数カ月前のことです。
 サービス提供が始まったばかりなので、まだ不十分な点があります。しかし、現在でもすでにかなりのことができますし、技術進歩はきわめて急速なので、短い期間のうちに可能性がさらに広がることが期待されます。
これまでも、ワードプロセッサ(ワープロ)で文章を書く、エクセルなどの表計算ソフトで計算する、メールで連絡する、検索で調べるなど、IT(情報技術)の活用によって生産性が上がりました。今後、AIの助けによって、さらにその傾向が促進されるでしょう。
 これは、人間の能力が増大したのと同じことです。うまく利用すれば、仕事も生活も大きく変わるでしょう。
 AIは、さまざまな面で人間の創造活動を補助してくれます。ですから、それを活用すべきです。人間とAIの共働体制を作ることに成功した組織や人が、未来の世界を切り開いていくでしょう。
 ただし、新しい技術を使うためには、仕事の仕組みをうまく構築する必要があります。そのためには、これまで習慣的に行ってきたPC(パソコン)やスマートフォンの使い方を大きく変える必要があります。本書は、それについての具体的な提案です。
 本書が想定する読者は、クリエイティブな仕事をしたいと思っている人たち、新しい可能性を開きたいと思っている人たち、そして、仕事の効率を向上させたいと思っているすべての人たちです。
 本書で提案する方法を活用して、新しい世界を切り開いていただきたいと思います。

 本書の各章の概要は、以下のとおりです。
 第1章「新しい情報大洪水の到来」では、最近のコンピュータの進歩で、われわれが扱う情報の量が爆発的に増大していることを述べます。
 音声認識でメモを取れるようになり、従来よりは10倍以上のスピードで文章を書けるようになりました。それをクラウド(インターネットを介して利用するサービス提供者の大型コンピュータ)にいくらでも保存しておくことができます。これによって、仕事の効率は上がりますが、同時に文章の量が飛躍的に増大しました。
 スマートフォンで写真を簡単に撮れ、クラウドに無制限に保存することができます。文字でメモを取らずに写真を撮るようになると、写真の数が爆発的に増えます。
 このように増大した情報を管理するのが、困難になりつつあります。個人で扱うデータが個人の処理能力を超えるようになってきているのです。しかし、基本的な考えを転換すれば、新しい可能性が開けます。本書はそのための具体的な提案を行っています。

 第2章では、まず、整理という問題についての基本的な事項を述べます。 整理が必要なのは、整理しなければ資料の収納場所がなくなるし、必要な資料を見つけにくくなるからです。しかし、整理はそれ自体は何も生み出さない仕事なので、いかに整理に時間を使わずに仕事をこなしていくかが重要です。
 世の中には、ノウハウでないノウハウが多すぎること、情報は分類できないこと、分類とは思想であることなどを述べます。「超」整理法は現在でも通用する概念です。「場所がなくなる」は、AI時代には解決されました。しかし、「必要なものが見つからない」は深刻になっています。
 つぎに、「押し出しファイリング」の基本的な考えについて述べます。これは、情報爆発時代になって新たな重要性を持ち始めています。
 デジタル時代には、「分類するな。検索せよ」が新しいモットーになりました。検索のノウハウが重要になったのです。
 デジタル情報について重要なことは、「いらないものを捨てる」という努力をやめて、「必要なものを検索する」という方針に転換することです。私は、Gメールについてはすでにその方針に転換して、これを文書の効率的なアーカイブとして利用しています。

 第3章では、「捨てるのでなく検索する」という方針に転換することによって、新しい可能性が開けることを示します。グーグルドキュメントを応用することによって、AI時代の「超」メモ帳を構築できることを具体的な使い方の提案として示します。
 また、「捨てずに検索」という考えを写真にも適用することによって、写真の検索システムを構築しうることを述べます。

 第4章「思考を整理する『超』AI文章法」では、スマートフォンの音声認識アプリを使って文章を書くことについて述べます。
 音声入力によって、キーボード入力に比べて文章を書くスピードを飛躍的に向上させることができます。ただし、速さより重要なのは、いつでもどこでも、思いついたことをすぐにメモに取れるようになったことです。これによってアイディアを取り逃がすことなく、成長させていくことが可能になりました。
 メモだけでなく、音声入力で本格的な文章を書くこともできます。そのためには、適切な仕組みを構築することが必要です。

 第5章では、グーグルが提供するスマートフォンのアプリである「グーグルレンズ」を用いて、画像による検索が可能になりつつあることを述べます。これは、「眼のある百科事典」の出現という、画期的なできごとです。
もっとも、現状では、「バラとは認識できるが、バラの種類までは正確に認識できない」などの問題があります。また、顔認識では、欧米の俳優は認識できますが政治家の顔は認識できません。
 これに対して、文字情報については、データベースの制約がないため、現在でもかなりのことができます。画像認識の利用は、文字情報の認識を中心に考えるのがよいでしょう。
 とりわけ重要なのは、文字を撮影するだけでシームレスに検索できることです。従来の検索との差はわずかと思われるかもしれませんが、外国語の検索などでは大きな違いをもたらします。
さらに第5章では、画像認識アプリの具体的な使い方も動画で説明しています。
 なお、本書では画像認識アプリとしてグーグルレンズを中心に紹介していますが、これ以外のアプリもあります。ここでは、グーグルレンズ以外の画像認識アプリも紹介します。

 第6章「AIを駆使するアイディア製造と独学」では、まず「アイディア製造工場プロジェクト」を紹介します。これは、従来から作家が書いてきた「創作ノート」と基本的に同じものですが、途中過程を公開しているという意味でこれと異なります。
 3の「『沈黙していた書物』がつぎつぎにしゃべり出した」では、画像認識アプリで印刷物を読み上げさせることについて述べます。これは、外国語を勉強するための強力な手段となります。外国語の独学が効率的に、しかも楽しく進められます。
 また、画像認識からシームレスに自動翻訳にかけられるので、中国語などの文献を読むのが容易になります。

 第7章「インターネットと現実世界の新しいつながり」では、リアルな世界とインターネットがシームレスにつながることの意味を考えます。
 インターネットの世界に入る入り口が現実世界にできることによって、現実世界のスペースや印刷物の価値が上がるでしょう。
 QRコードやグーグルレンズによるURL(インターネット上の資料などの場所を示す記号)の読み取りなどは、印刷物の世界を変える可能性を持っています。これまでもURLを入力すればサイトを開けましたが、画像認識を利用すればカメラを向けるだけでサイトに飛べるため、サイトを開くのが容易になります。
 また、クリエイターが自分の存在を知らせる最強の方法として、名刺にQRコードを印刷する具体的な方法を提案します。

 グーグルレンズを用いて資料の整理を効率化することができます。第8章では、その具体的方法を述べます。
 名刺については、データが急速に陳腐化する、50音順では役立たない場合が多いなどの難しい問題があることを指摘します。
 グーグルレンズで名刺を撮影すると、名前やメールアドレスなどを自動的に抽出して、アドレス帳やメール送信画面をシームレスで開いてくれます。これは大変便利な機能ですが、現状では、うまく認識しない場合もあります。
 名刺は、ある程度の枚数をまとめて写真を撮るのが最も効率的な整理法です。
 新聞切り抜きはこれまで悪夢の作業でしたが、現在では、記事そのものはインターネットにあるので、見出しのみを保存すれば新聞切り抜きから解放されます。
 名刺にしても新聞記事にしても、「何とか機能する仕組み」を作るのが重要なことです。
 パスワードの管理や領収書の整理も厄介な作業です。
 パスワードを手書きでノートに記入しておいて、必要なときに画像認識を用いて入力するのが最も安全で便利な方法でしょう。
 また、領収書の整理に画像認識を用いることもできます。ただし、領収書のような非定型文書からのデータ抽出は、現在のところ不満足な状態です。
 この章ではさらに、グーグルレンズを利用する場合に目的の文字列だけを素早く認識させる方法を紹介します。

 第9章「AIはいかなる未来を作るか?」では、パタン認識技術の今後を展望します。
 音声認識や自動翻訳の精度はさらに上がるでしょう。画像認識の能力もさらに進んで、非定型文書からのデータ抽出もできるようになるでしょう。セマンティック検索は、現在では十分な性能とは言えませんが、これも将来進歩するでしょう。セマンティック検索とは、「意味的(semantic)な検索」ということで、AIが検索キーワードの意味を理解し、必要な情報を選んでくれる技術です。
 こうなると、人間が知識を持っている必要がなくなるように思えますが、決してそうではありません。知識を蓄積する必要性はむしろ増すのです。
テーマを与えてAIに文章を書かせることはすでに行われていますが、これと人間の創作とは異なるものです。どんなテーマについて書くかは、人間が考えることです。AIによる自然法則の発見などが試みられていますが、そのメカニズムは、人間の創造作業とは本質的に異なるものです。AIの力を借りて創造力を高めることこそ、AI時代にわれわれが目指すべき目標です。

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 下記のQRコードをスマートフォンで認識させると、本書のサポートページに飛びます。ここには、最新情報のほか紙幅の制約で本書に掲載できなかった写真や、関連サイトへのリンクなどがあります。

 これは、画像認識技術を実際の書籍に活用したものです。つまり、本書の第7章で述べている「印刷物の『疑似ハイパーリンク化』」の実践です。これによって、書籍の新しい可能性を開きたいと考えています。サポートページ等の内容は、本書刊行後も随時更新する予定です。
 本書で紹介しているアプリ等は、2019年5月末時点のものです。

 本書の刊行にあたっては、企画の段階から、株式会社KADOKAWAの伊藤直樹氏、大川朋子氏、黒田剛氏、noteの玉置敬大氏にお世話になりました。何回ものブレインストーミングを通じて、大変有益なアドバイスと示唆をいただきました。これらの方々に御礼申し上げます。

 また、『「超」AI整理法』note版の公開をお認めくださった株式会社KADOKAWAに御礼申し上げます。
 このnote版の内容は、『「超」AI整理法』(KADOKAWA,2019年6月)と基本的に同一のものです。ただし、完全に同じではなく、若干の差異があります。
  note版についての責任は、野口悠紀雄個人にあります。

2019年8月
                            野口悠紀雄



・「超」AI整理法(note版)目次


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動画説明は書籍版と別のものです。写真は、書籍版にないものも掲載しています。書籍版への追加は、随時、更新する予定です。

『「超」AI整理法』(KADOKAWA、2019年6月)のnote版です。本文は基本的に書籍版と同一ですが、「超」メモ帳とアイディア製造工…

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