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『データエコノミー入門』 激変するマネー、銀行、企業 :全文公開 第5章の1

『データエコノミー入門 』激変するマネー、銀行、企業(PHP新書)が10月15日に刊行されました。
これは、第5章の1全文公開です。

第5章 オープンバンキングで進むデータ利用

1  銀行に眠っていたデータをAPIで掘り起こす

銀行には大量の預金データがある
 現金(紙幣)で支払いがなされると、記録が残らない。しかし、振込や口座引き落としなどが銀行を通じて行なわれれば、データが銀行に残る。銀行には、もともと大量のデータがあったのだ。そして、これはデジタル化されている。
 しかし、銀行は、このデータをこれまで活用してこなかった。これは、日本だけのことではない。どの国でも似たような状況だった。正確に言うと、ATMの手数料収入は考えたが、データを活用するという視点はなかった。最も有用なデータを最も不適切に扱ってきたのだ。まさに宝のもちぐされだ。
 こうなった理由として、銀行が規制産業であり、認められていた業務が限定的だったため、データを活用したサービスを提供しにくかったことが挙げられる。
 しかし、ビッグデータの重要性が認識され、Alipayの信用スコアリングなどの成功例が明らかになるにつれて、銀行が持つデータの重要性が認識されるようになった。

これまでは、「スクレイピング」でデータ収集
 2013年頃から、日本でも、クラウド会計ソフトや家計簿アプリが登場した。これらは、銀行のシステムにアクセスして、銀行口座の入出金情報を取り出している。
 ところで、これまで銀行システムへのアクセスには、IDとパスワードが必要だった。これらのアプリでは、サービスを提供するIT業者が、顧客からIDとパスワードの提供を受け、顧客に代わって銀行のシステムにアクセスし、必要な口座情報を取得していた。この手法は、「スクレイピング」と呼ばれる。
 つまり、利用者に代わって、銀行のシステムにログインしてデータを取得していたのだ。しかし、口座名義人ではない業者がアクセスするのは、望ましいことではない。また、セキュリティの面、処理スピードの面でも問題があった。

API公開への動き
 そこで、「オープンAPI」が登場した。API(Application Programming Interface)とは、異なるデータシステムを連結する仕組みだ。つまり、「あるアプリケーションの機能や管理するデータなどを、他のアプリケーションから呼び出して利用するための接続仕様」のことである。データ利用者は、API仕様に基づいてアクセスすれば、データを取り出すことができる。
「オープンAPI」(APIを公開する)とは、外部アプリとの間で、コミュニケーションや連携ができる状態にすることだ。システムへの接続仕様を公開し、契約を結んだうえでアクセスを認める。それによって、安全で正確なデータ連携が可能になる。こうして、ある企業のデータを他の企業が利用できるようになる。
 APIは、2000年代から、セールスフォース・ドットコムやイーベイなどを中心に利用が広がった。Uberは、配車のための地図情報や、コミュニケーション機能、決済機能に複数のAPIを利用し、自らは乗客と車のマッチング機能の開発に専念している。最近では、多くのサービスにWeb APIと呼ばれる仕組みが組み込まれている。

オープンバンキングへの動き
 しかし、金融機関はこの動きにあまり積極的ではなかった。セキュリティを懸念したからだ。
 ところが、数年前から、これを積極的に進めようとする動きが広がってきた。これが、「オープンバンキング」と呼ばれる動きだ。
 イギリスでは、2014年から政府が主導してオープンバンキングが推進されている。2018年には、大手銀行9行に、「オープンAPI」が義務付けられた。
 EUでは、2018年1月から、顧客の同意の下に、金融機関等が保有する個人の口座情報や取引情報のデータに外部の事業者がアクセスできるようになった。さらに、API接続を銀行に義務付けた。

日本でも銀行API公開へ
 日本でも、銀行法の改正によって、金融機関が第三者に顧客情報を提供する条件が緩和された。
 オープンAPIによるデータ連携では、2018年6月の改正銀行法の施行後、銀行にAPI接続の努力義務を課した。そして、APIを使ったサービス連携の契約をする猶予期間を2年間設けた。
 この猶予期間の間に契約締結作業が進むことが期待されていたのだが、当初予定していた2020年5月末の猶予期間終了を目前にしても、想定していたほどには契約締結が進まなかった。
 最大の原因は、銀行ネットワークへの接続時にIT企業が銀行に支払う手数料だ。銀行側からみれば、長年にわたって莫大なシステム投資を実施してきたコストを回収したい。また、API接続への対応に伴う設備投資も発生している。
 一方、IT企業からすれば、これまで無料だった接続料が有料になると、これを顧客から徴収する料金にどこまで転嫁できるか、難しい。こうなってしまうのは、家計簿アプリなどでは、高額な利用料金を請求できるほどの高い付加価値はないからだ。
 そこで、金融庁が金融機関とIT企業の間に入って契約締結を促進したり、公正取引委員会が文書を発表したりして、契約を促した。





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