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バレエは最も残酷な職業であり、もっとも純粋に実力だけの世界

 最も残酷な職業は何か?それはバレエであると私は思っている。
 第一に、主役とそれ以外の者の差が隔絶的だ。
 主役が1人あるいは2人で踊り、その他大勢がコールドバレエという形で周りを取り囲むと言う場面は極めて多い。これがバレーの見せ場になっている。

 もちろん、映画や演劇においても、主役とその他の出演者の差はある。しかし、これほど隔絶的な差ではない。いわば、連続的的な差だ。

 職業としてのバレエダンサーになるためには、幼児の頃からバレエのレッスだけに励み、その他のことを一切捨て去る必要がある。
 そうした努力を続けたにもかかわらず、ほとんどの人は「その他大勢」になり、ごく1部の人が、例外的に主役の座を獲得できる。これほど残酷な職業はない。

 第二の残酷さ。それは、主役になったとしても、その座をいつまでも維持できないことだ。
 普通は10年程度。長くても20年位で、後からくる者にその地位を譲らなければならない。
 新陳代謝は、どんな社会でも生じることだし、映画や演劇でも生じる。しかし、映画や演劇では、歳をとってもそれなりの役を演じるとことは十分にあり得る。
 ところが、バレエにおいては、肉体的条件が厳しいので、そのようなことができない。
 これは、美しい花のいのちと似ている。花は永久に咲き続けることはできない。必ずしおれて枯れる。バレエでは、それが残酷といえるほど明確な法則となっているのだ。

 それにもかかわらず、われわれがバレエを見たいと思うのはなぜか?
 それは、バレエにおいては、決してインチキがないからだ。これは純粋に実力だけの世界なのである。
 さまざまなコネなどによって主役に抜擢されるということは、全くありえないわけではない。しかし、そうなったとしても、実力は舞台であらわになってしまう。したがって、このようなことは、稀にしか起こらないと考えてよい。
 世の中にはインチキが溢れている。悪貨が良貨を駆逐し、憎まれっ子が世にはばかる。追従と忖度とに優れたものが、高い地位を獲得する。
 このようなことが全くないのがバレエの世界なのだ。この世の中にそうした世界があると考えるだけで救われるではないか。







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