「超」メモ革命:全文公開 はじめに
『「超」メモ革命』(中公新書ラクレ)が刊行されます。
5月7日から都心の書店で、5月10日から全国の書店で発売予定です。
これは、はじめにの全文公開です。
はじめに
これは革命です
私は、1993年に『「超」整理法』を中公新書で刊行しました。書類の整理に悩まされ続けたあげく、その問題に対する解決法を見い出したと思ったからです。
本書では、書類や情報の整理という同じ問題に対して、『「超」整理法』の考えを基本的には引き継ぎつつ、そのときには考えも及ばなかった新しい方法を提案しています。
方法が変わったのは、情報技術が大きく進歩したからです。情報の生産量が大幅に増加したため、情報洪水が発生しています。仕事のやり方を変えないと、それに押し流されてしまいます。価値の高い情報が身の回りにたくさんあるのに、大量の情報に埋もれて、有効に活用できません。
しかし、他方において、情報を扱う手法も飛躍的に進歩しました。1993年頃には限定的な範囲でしか利用できなかった検索機能が、大幅に向上しました。ファイル間にリンクを貼ることも容易になりました。さらに、個人でもクラウドを簡単に利用できるようになりました。また、音声認識の精度が向上し、高度な画像認識も可能になりつつあります。これらの技術を活用すれば、これまではできなかったことが可能になります。
『「超」整理法』においては、「情報は分類できない。時系列でしか整理することができない」と書きました。しかし、その当時には使えなかった技術を用いることによって、分類に伴う問題を解決できるようになったのです。
本書で提案している方法は、情報をその内容に従って分類するものです。情報をデジタル化し、それをクラウドに上げれば、紙の場合には解決できなかった問題が克服できるのです。
分類問題に限らず、情報処理の様々な側面で、考え方と仕事の方法を大きく変える必要が生じています。考えを変え、新しい技術をうまく利用することができれば、身のまわりにある大量の情報を宝の山に変えることができます。
DX(デジタル・トランスフォーメーション=デジタル化)が必要と言われます。これは、政府や企業の仕事に限ったことではありません。個人のレベルにおいても必要なことです。とくに、クリエイティブな仕事に関しては、本書が提案しているシステムの採用は不可欠です。これによって、蓄積した情報を有効に活用することができるようになります。
このシステムの利用範囲は、クリエイティブな仕事に限られるわけではありません。どんな仕事についても必要なものです。また、日常生活にも役に立ち、仕事や日々の生活を円滑にします。
それだけでなく、これを使っていれば、日々の生活のなかから、新しい発見ができるようになります。それによって、あなたの生活は豊かなものになるでしょう。
これは、個人生活のDXです。こういうと、いかにも大変なことと思われるかもしれません。しかし、決してそうではありません。誰でも、すぐにできることです。必要とされるのは、考え方と習慣を変え、これまでの仕事と生活の惰性から脱却することです。そのために一歩を踏み出せば、新しい世界が開けます。
本書は、大きく3部に分かれています
第1部は、「とにかく始めてください」という提案です。本書では第2部において、必要なファイルを見い出すための様々な方法を提案しているのですが、それは一見したところ難しいものと思われるかもしれません。「こんな面倒なことはやりたくない」と考える方がいるでしょう。人間は新しいものに対しては本能的に警戒心を持つので、こうした考えを持たれても、やむを得ないかもしれません。
しかし、本書の方法は、実に簡単なものです。ですから、とにかく始めていただきたいのです。そうすれば、この方法がいかに強力であるかを実感していただけると思います。
私が「超」メモと呼ぶこのシステムは、何の準備もなく始め、その後必要に応じて様々な仕組みを追加したり改定していくことができるものです。つまり、柔軟な対処が可能なものです。必要な道具は、スマートフォンだけです。
そこで、「とにかく始めるための簡易版」を第1―1章で示し、それがどのような役に立つかを第1―2章で説明します。また、紙とデジタルの比較を第1―3章で行ないます。
ただし、発想の転換が必要です。「超」整理法のときには、「分類しない」ということが、もっとも重要な発想の転換でした。いまは、「捨てなくてもよい」と考えを変えることが、要求される最も重要な転換です。これについて第1―4章で述べます。
第2部は、このシステムの効率をさらに高めるための様々な方法の提案です。目的は、極めて大量な情報の中から、必要な情報を直ちに引き出すための仕組みを作ることです。
第2―1章では、方法論を概観します。第2―2章ではMTF(使ったものを先頭に置く)という原則を説明します。これは「超」整理法における「押し出しファイリング」の思想ですが、いまでも、もっとも簡単でもっとも強力な方法です。
本書では、これに加え、第2―3章でリンクを、第2―4章ではキーワードによる検索を提案します。以上の三つの方法を組み合わせて用いることによって、どんなファイルでも即座に見い出すことができる仕組みを作ることができます。
第2―5章では、データをPCやスマートフォンなどのローカルな端末に保存する方法には、様々の問題があることを指摘します。問題の多くはフォルダ方式を取ることによって生じるものです。フォルダ方式では解決できなかった分類上の問題が、リンク方式では解決できることを第2―6章で述べます。
第2―7章では、メールと組み合わせることで強力なアーカイブを構築できることを示します。
以上で構築される仕組みは、「超」メモというよりは、「超」アーカイブ(文書保管庫)と呼ぶ方が適切なものです。
第3部においては、第2部で構築した仕組みを用いて仕事をすることについて述べます。
第3―1章で、私自身の情報管理法の変遷を振り返ります。第3―2章では、人間の認識能力の限界を示す「マジカルナンバー・セブン」を、本書の方法によって突破できることなどを述べます。
第3―3章では写真の整理法について述べます。第3―4章では、手書きのメモや新聞記事、名刺などのアナログ情報について、デジタル化が可能になっていることを指摘し、具体的な使い方を提案します。
第3―5章で述べるように、「超」アーカイブは、いくつかの点で、有能な部下より優れています。今後、情報技術がさらに発展すれば、「何かいい資料はないか?」というだけで、適切な資料を差し出してくれるようになるでしょう。ただし、そうした技術進歩の恩恵を最大限に享受するには、いまから情報を「超」アーカイブに保存し続けていく必要があります。その意味で、将来起こる革命にいまから備える必要があるのです。
1789年7月14日の夜、バスティーユ襲撃事件の第一報を受けたフランス国王ルイ16世が「なに、暴動か」と受け流したのに対して、ラ=ロシュフコー=リアンクール公は、「いいえ陛下。暴動ではございません。これは革命です」と正しく指摘しました。
私は読者の皆さんに、同じ警告を発したいと思います。
本書の執筆と刊行にあたっては、1993年の『「超」整理法』の際にお世話になった中央公論新社、雑誌・事業局プロジェクト編集部の山本啓子氏にお世話になりました。御礼申し上げます。
本書執筆の過程では、Google ドキュメントの共有機能とコメント機能を応用して、山本氏との共同作業を進めることができました。本書が提案する方法が有効であることが実証されたのです。
2021年4月
野口悠紀雄
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