見出し画像

『どうすれば日本経済は復活できるのか』 全文公開:第1章の1

『どうすれば日本経済は復活できるのか』 (SB新書)が11月7日に刊行されました。
これは、第1章の1全文公開です。

第1章 G7のトップから最下位へ

1. サミットのトップから最下位に 沖縄から広島への日本の変化

G7の中での日本の地位は?

 2023年5月に、G7サミット(主要国首脳会議)が広島で開かれた。日本は名誉ある議長国だった。
 では、1人当たりGDPで見て、日本はG7各国のうちでどのような位置にいるか? IMF(国際通貨基金)のデータによれば、図表1-1のとおりだ。日本は最下位である。
 7カ国のうちで、直近では日本はイタリアと最下位を争っていたのだが、ついにイタリアに抜かれてしまった。ところが、2000年における順位を見ると、日本はG8のトップだった。この23年の間に、G7における日本の位置が大きく変化したことが分かる。1人当たりGDPの値を2023年と2000年で比べると、日本以外の国ではほぼ2倍になっているのに対し、日本だけが低下した。

日本の1人当たりGDPは「アメリカの半分以下」
 図表1-2は、日本、アメリカ、韓国、台湾の1人当たりGDPの推移を示す。2000年から2023年の間に、アメリカも韓国も台湾も、1人当たりGDPが増加しているが、日本は増加していない。アメリカが順調に成長したのに対して日本は成長しなかった結果、2022年には、日本の1人当たりGDPはアメリカの約半分にまで落ち込んでしまった。
 韓国と比較すると、2000年においては、日本の1人当たりGDPは、韓国の約4倍だ
ったが、2022年にはほぼ同じになった。台湾も、韓国とほぼ同じ推移をたどっている。

 つまり、この期間に、日本は「アメリカ並み」から「韓国・台湾並み」になったことになる。これまでの推移が将来も続くとすれば、韓国や台湾は日本を抜いていくだろう。そして、10 年後、20年後には、韓国や台湾は、日本よりずっと豊かな国になっている可能性が高い。
 G7は、先進国のグループである。1980年代、90年代において、アジアの代表が日本ということに異議を唱える人はいなかっただろう。しかし、韓国が日本より豊かな国になった場合、日本がG7のメンバーであることが適切かという意見が出てきても、反論するのは難しいのではないだろうか。

日本の地位低下の原因は円安
 では、なぜ日本の国際的地位は、このように低下したのだろうか。
 その一つの理由は、為替レートにある。
 2010年頃の時点で、日本の1人当たりGDPが高くなっているのは、この時期に円高が進んだからだ。そして、最近になってアメリカの1人当たりGDPが急に伸びているのは、ドル高円安が進んだ影響が大きい。
 2000年から現在までを見ても、図表1-3のように、円はドルに対して減価している。したがって、為替レートの影響によって、ドルベースで見た日本の成長率が低くなっていることは間違いない。

円安に安住して改革の努力を怠った
 ただ、原因はそれだけではない。自国通貨建てで見ても、日本の成長率は低いのだ(図表1-4参照)。
 日本では高齢化が進んでいるために、労働力の伸び率が低いからだろうか。日本の労働力の成長率が低いのは事実だ。それは、経済全体の成長率に大きな影響を与える。しかし、ここで考えているのは1人当たりGDPの数字であるため、労働力の伸び率の影響は受けにくい。
 実際、韓国の出生率は日本よりずっと低く、労働力の伸び率も低い。それにもかかわらず経済成長率は高い。それは、技術進歩率が高く、企業改革が進んだからだ。それに対して日本は、技術進歩率が低く、企業改革も進まなかった。
 これは、さまざまな指標から読み取ることができる。例えば、企業の時価総額ランキングだ。1995年のランキングを見ると、NTTが世界第2位、トヨタ自動車が第8位だった(内閣府の資料による)。2005年でも、トヨタは第9位だ。

 ところが現在では、ランキングの10位までに日本企業はいない。日本の時価総額トップであるトヨタ自動車は、世界第43位だ。アジアのトップは台湾の半導体製造会社TSMCであり、世界第12位となっている。第2位は韓国のサムスン電子で、世界第24位だ(Largest Companies by Market Capによる2023年8月20 日の値)。
 スイスのビジネススクール・国際経営開発研究所(ⅠMD)による「世界競争力ランキング」で見ても、2000年頃には世界のトップにあった日本が、2023年6月に公表されたランキングでは、63 カ国・地域中で過去最低の世界第35位に落ち込んでいる(本章の3参照)。
 このように、日本の成長率が低い基本的な理由は、日本で技術進歩や産業構造の改革が行われていないことだ。

円安によって日本の競争力が低下した
「為替レートが円安になったために、ドル表示の1人当たりGDPで日本の伸び率が低い」と述べた。これは、為替レートの直接の影響だが、為替レートが円安になることの影響はそれだけではない。
 円安になると輸出企業の利益が自動的に増えるので、日本の企業が技術開発や新しいビジネスモデルへの転換を怠ったことは否定できない。2022年において急激に円安が進んだので、円安の問題点を多くの人が認識するようになった。しかし、この問題に対する人々の関心は、その後、薄れたように思われる。
 2023年6月のレートは1ドル=145円程度で、2021年初頭に105円、2022年初頭に115円程度であったのと比べても、かなりの円安だ。図表1-3で見ても、現在の為替レートが異常であることが分かる。
 各国の物価上昇率の差を調整した実質実効為替レート(本章の5参照)で見ると、現在の値は1971年頃の水準だ。こうした状況は、是正されるべきだろう。日銀の新体制が、この問題にどのように対処するのかが注目される。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?