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『リモート経済の衝撃 』:全文公開 第2章の2
『 リモート経済の衝撃』(ビジネス社)が1月21日に刊行されました。
これは、第2章の2の全文公開です。
2 スター・ウォーズの世界へ
映画「スター・ウォーズ」の世界、グーグル Project Starline
グーグルがProject Starlineという計画を2021年5月に発表した。これは、遠くにいる人とまるで目の前にいるかのように面会できる手段だ(図表2-3参照)。
人間を3Dキャプチャし、それを圧縮して伝送する。3Dメガネやヘッドセットなどを装着するのではなく、裸眼で立体視ができる「ライトフィールドディスプレイ」を使うことによって、3D画像を自然な形で立体的に見ることができる。
このため、相手と一緒にいるような感覚が味わえる。実験に参加した人は、誰もが感激したという。
中核的な技術は、3Dイメージング(キャプチャ)とリアルタイム圧縮、そして3Dディスプレイだ。
映画スター・ウォーズの世界では、「ホログラフ」という3次元映像が遠隔通信に用いられている。ジェダイ最高評議会では、遠隔地にいるメンバーはこれを使って会議に参加する。最高評議会室では参加者の等身大の映像が投影され、参加者側では会議室の映像が投影される。
Project Starlineはこれに近づいた。いや、映画の中の初期のホログラフ(画像は薄い青色だけだったし、不安定で消えたりした)より進んでいる面があるとさえいえる。
もっとも、Starlineは製品化され、実用化されているところまではいっていない。特注のハードウェアと機器が必要であり、一般の人が使えるようにはなっていない。
グーグル社内で、ベイエリア、ニューヨーク、シアトルの各オフィスをつなぎ、テストが行なわれている。
また、医療やメディア分野の企業をパートナーとした、試験的な開発を開始すると発表した。
将来は、手頃な価格で利用可能とし、グーグルのコミュニケーション製品に取り入れることを目標としている。
移動の技術からリモートの技術へ
リモート技術の利用は、コロナ禍において急速に社会に広まった。コロナが終息したとしてもなくなるものではない。コロナ後の社会の重要な要素として残るだろう。
グーグルが多大の資源を投入してProject Starlineを推進しているのは、コロナ後においてもリモート技術に対する需要は強く残るという見通しがあるからだろう。
グーグルは「物理的に一緒にいられなくても一緒にいたいと思うことを、重要な問題と考える」としている。この見通しも評価も正しいと思う。
私が注目したいのは、移動を効率化するより、動かないでもコミュニケーションができるような方向に技術が動いていることだ。
Project Starlineほど高級な技術でなくとも、Zoomのようなテレビ会議が広く使われるようになって、テレワークというものが可能であることを多くの人が実感するようになった。
身体に障害があるなどの理由で移動が難しい人は大勢いる。そうした人たちにとっては、Zoomだけでも大きな朗報だ。
ましてやStarlineのような技術を手軽に使えるようになれば、社会的活動への参加はずっと容易になるだろう。まさに夢の技術だ。
リニア新幹線や環状道路は本当に必要なのか?
翻って日本はどうか? リニア新幹線の工事が進んでいる。リニア新幹線だけではない。東京外かく環状道路のトンネル工事も進んでいる。
ところが、外かく環状道路ルート上にある東京都調布市の住宅街で、20年10月に陥没事故が発生した。これを受けて、掘削工事は一部区間で凍結されている。
私は、移動が速くなることは疑問の余地なく望ましいことだと、これまで思っていた。しかし、考えを転換した。テレビ会議に慣れて、実際に会わなくとも仕事を進められることがわかったし、他方で大深度地下の工事は決して安全ではないことがわかったからだ。リニア新幹線と同じように、これは無理な工事だ。
それよりも、車の量を減らすほうが重要だと思うようになった。
脱炭素社会を実現する観点からも、自動車移動の削減が重要だ。移動しなくても仕事や社会活動ができるような技術を開発し、実際の仕事に導入することは、脱炭素社会建設に不可欠な要素だ。