リブラは中国を牽制する最強力の手段
アメリカは、仮想通貨リブラの取り潰しにかかった。しかし、これはまったく愚かな考えだ。アメリカとしては、中国に対抗するための手段として、むしろリブラを育成するべきだ。
米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長は、6月11日の米上院委員会で、フェイスブックが発行を計画する仮想通貨「リブラ」について、「リスクを慎重に審査する必要があり、それが1年以内に完了するとは思わない」と述べた。リブラは2020年前半の実用化を目指しているが、認可が遅れる可能性があるとされる(日経新聞、7月12日)。
FRBは、リブラの取り潰しにかかったわけだ。各国政府や中央銀行とも協調するとしている。その理由として挙げているのは、犯罪組織などによってマネーロンダリングなどに用いられる危険だ。
確かに、マネーロンダリングに用いられる危険はある。しかし、これはリブラだけの問題ではない。ビットコインなど、他の仮想通貨でもできることだ。それだけではない。中央銀行が発行する銀行券によっても可能だ。実際に行なわれている。
少し前のイギリス政府の調査報告によれば、マネーロンダリングに最も使われる手段は、仮想通貨ではなく、銀行預金である。
パウエルが恐れているのは、中央銀行の金融政策が影響を受けることだ。究極的には、中央銀行が無用になるといった事態も考えられる。リブラは、中央銀行に対する本格的な挑戦なのである。
ただし、このことによって影響を受けるのは、アメリカではない。通貨が弱いために資本流出に悩む国だ。この中には、中国も含まれる。
リブラが広く使われるようになれば、中国からの資本流出が拡大して、中国経済が危機に陥る可能性がある。
アメリカが中国の発展を阻害したいのであれば、リブラの発展を助けることによって、極めて強力な手段を得ることになる。ファーウエイを取り潰そうとするよりは、遙かに効果的だ。
アメリカは、世界経済の覇権を確かなものにすることができるはずだ。パウエルの考えは全く愚かなものだ。
リブラを潰すことはできるだろう。しかしブロックチェーンを用いた新しい金融の仕組みのすべてを完全に潰すことはできない。「規制をすればよい」というのは、古い考えだ。
ブロックチェーンによる分散的な仕組みと、国家の管理との本格的な戦いが始まろうとしている。