『データエコノミー入門』 激変するマネー、銀行、企業 :全文公開 はじめに
『データエコノミー入門 』激変するマネー、銀行、企業(PHP新書)が10月15日に刊行されました。
これは、はじめにの全文公開です。
はじめに
マネーを制する者がデータを制し、データを制する者が世界を制する
本書は、「マネーはデータ」という基本的な視点に立って、マネーの未来像を描こうとする試みだ。
マネーのデータとしての側面を重視するのは、経済活動の基本がいま大きく変質しつつあると考えるからだ。工場や機械、店舗などの物的な資本ではなく、データが経済的価値を生み出す「データ資本主義」への移行が生じつつあるのだ。
とりわけ重要なのが、「ビッグデータ」と呼ばれるデータだ。これを巧みに活用すれば、巨額の収益を上げられることが分かった。アメリカや中国の巨大IT企業がビッグデータを基礎としたビジネスモデルを築きあげ、目覚ましい成長を遂げている。
一方、電子マネーの登場によって、これまでは利用することができなかったマネーのデータを利用できるようになった。マネーのデータは、様々な意味で、従来のビッグデータより強力だ。
マネーのデータを利用可能にする手段としては、電子マネー以外のものもある。その一つが、銀行APIの公開(銀行のデータを外部の組織が利用できるようにすること)だ。オープンバンキング、チャレンジャーバンク、ネオバンク、BaaS、組み込み型金融など、銀行APIを利用した様々の新しい仕組みやサービスが登場している。中央銀行デジタル通貨が導入されれば、さらに大きな変化が生じることとなるだろう。
マネーという最強のデータを巡る争奪戦は、すでに始まっている。その勝者が未来の世界を支配することとなるだろう。
情報通信技術の著しい発展にもかかわらず、これまで金融の世界はあまり大きく変化することがなかった。それがいま、根本から変わろうとしている。その影響は、金融の領域にとどまらず、経済の基本的な仕組みを大きく変えていくことになるだろう。
本書は、このような動きを紹介するとともに、それらがもたらすプラスの効果とマイナスの効果について論じている。また、DeFi(分散型金融)という新しい動きや、分散型IDと呼ばれる新しい本人確認の方法なども紹介している。
日本はこれまで、ビッグデータの活用に立ち遅れた。日本経済衰退の根本的原因は、工場や店舗でなくデータが基本的資本となる「データ資本主義」に対応できなかったことだ。新しいビッグデータであるマネーのデータを活用することによって、日本再生の手がかりをむことが期待される。
以上で述べた変化は、金融関連の仕事に携わっている方には、直接的な意味を持つ。したがって、いま何が生じつつあるかを正確に把握し、それに対応する必要がある。
マネーが大きく変化することは、仕事だけではなく、日常生活にも大きな影響を与える。したがって、この問題は、金融関連の仕事に直接に携わっている人だけではなく、多くの人が知るべきものだ。
しかし、マネーはきわめてテクニカルな論点を含むので、なかなか理解しにくい。本書の執筆にあたっては、金融の仕事に直接関係していない方でも予備知識なしに読んでいただけることを心がけた。
本書の構成
本書の構成は以下のとおりだ。
第1章においては、「ビッグデータ」とはいかなるものか? なぜそれが価値を持つのか? などについての説明を行なう。ビッグデータは、個々のデータにはあまり価値はないが、それらが大量に集まることによって価値が生み出されるものだ。
ビッグデータの利用としては、「プロファイリング」による「ターゲティング広告」や、コンピュータの機械学習への利用などがある。
この章では、アメリカの巨大IT企業であるGoogleやFacebookが保有しているビッグデータの価値がどの程度のものかについて、推計を行なっている。
第2章においては、ビッグデータの利用と収集に関する様々な制約や規制について述べる。日本でも、「個人情報保護法」によってデータの利用が規制されている。さらに独禁法の適用や課税強化が必要との考えもある。また、「クッキー」と呼ばれる仕組みについても、見直しがなされている。
この章では、これらの動きを世界の潮流にも言及しながら解説する。
第3章では、マネーがビッグデータとしていかなる特徴を持っているかを説明する。まず、本書において「マネー」と呼んでいるものがどのような範囲のものであるかを説明する。ここで重要なのは、電子マネーと仮想通貨の仕組みの違いを理解することだ。またマネーデータの利用例として、信用スコアリングの目覚ましい成果についても説明する。
第4章においては、マネーのデータを個人がコントロールできるかどうかを論じる。電子マネーや仮想通貨において、この問題がどうなっているかを見る。
また、銀行口座へのログインの方法として、現在の仕組みに代えて「分散型ID」という仕組みが可能であることを述べる。これは、個人のプライバシーを守りつつ、本人確認を行なうための仕組みだ。
第5章では、銀行のデータを活用する仕組みである「オープンAPI」について説明する。これによって、銀行のデータを他の組織が利用することが可能となる。そして、銀行以外の組織と銀行の共同作業が可能になり、様々な新しいサービスも提供できるようになる。例えば、経理作業の自動化や信用スコアリングが可能になる。また、「オープンバンキング」「BaaS」「組み込み型金融」などの新しい仕組みについても説明する。
第6章においては、管理主体なしに金融サービスを提供する仕組みについて述べる。ビットコインなどの仮想通貨のもともとの仕組みは、そのようなものであった。最近急成長している「DeFi」(分散型金融)は、その仕組みを送金以外の金融サービスに拡張するものだ。これは、「スマートコントラクト」という仕組みによって、管理主体なしに事業を進める「DAO」(分散自律型組織)の一つの形態である。
第7章においては、日本の銀行のビジネスモデルがいかに変遷してきたかを述べる。そして、新しいビジネスモデルとしてどのようなものが必要かを論じる。
日本の銀行のビジネスモデルは、預貸金利鞘に立脚する「ブランチバンキング」であった。高度成長期には、このビジネスモデルがうまく機能し、日本は銀行オンラインシステムで世界の最先端にいた。
ところがその後、預貸金利鞘が縮小し、新しいビジネスモデルを見出すことが必要になった。手数料収入によるビジネスモデルを目指すべきだとする考えもある。しかし、この方向は様々な問題も抱えていることを指摘する。最も重要なのは、マネーをデータとして活用することだ。
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