大企業の中小企業化と正社員の非正規化
◇大企業の中小企業化
日本の賃金が上がらないのは大企業の賃金が上がらないからだ。中小企業では賃金は上がっている
2012年10-12月期から2018年10-12月期の期間を見ると、資本金10億円以上の企業では賃金が若干低下しているが、資本金2000万円~5000万円の企業では賃金が1割程度上昇している(『野口悠紀雄の経済データ分析講座』、図表3-1)。
これは、中小企業では人手を確保するために賃金を上げざるをえないことを意味している。
そして、これらの企業では、人員が1割程度減少している。
そこで放出された労働力が大企業で雇用されるために賃金が上がらないのだ。つまり、「大企業の中小企業化」が生じていることになる。
◇正社員の非正規化
働き方改革法によって、「同一労働、同一賃金」が義務付けられることになった。2020年4月から実施される。
これによって非正規就業者の待遇が向上することが予想され期待されているのであろう。 しかし、そうなる保証はない。「同一労働、同一賃金」は、正規の社員の賃金を下げることによっても実現されるからだ。
実際すでに、正規職員の様々な手当が削減されていると報道されている。
例えば、日本郵政グループは一部の正社員の住居手当を廃止する。
◇法律で決めても、実態は変らない
「同一労働、同一賃金」と法律で決めれば非正規職員の待遇が向上するというのは、経済メカニズムを無視した考え方だ。
非正規就業者が増えるのは、日本経済の生産性が向上しないからである。
生産性が低迷する状態で「同一労働、同一賃金」を義務付ければ、非正規就業者の待遇が悪化するのは、ごく正常な経済メカニズムが機能した結果である。
非正規就業の問題を解決するには、実体経済の生産性を上げることしか方法はない。
法律で義務づけたところで問題が解決しないことは、この問題だけではない。最低賃金の引き上げについても同様のことが言える。
最低賃金を引き上げれば、雇用が減るだけのことだ。
働き方改革で超過勤務を制限しても、仕事は減らないから、社外で仕事をすることになる。あるいは自宅に仕事を持ち返る。
形式が実現されるだけで、実態は改善されない。
なお、生産性が上がれば必ず賃金が上がるわけではない。法人企業統計によれば、これまで従業員一人当たりの付加価値は増えてきた。しかし、増加した分は利益に回され、賃金が上昇しなかった。