『2040年の日本』全文公開 第5章の4
『2040年の日本』 (幻冬舎新書)が1月20日に刊行されました。
これは、第5章の4の全文公開です。
4 NFTで何ができるか?
NFTとは何か
メタバースで重要な役割を果たすと考えられているのが、NFTの技術だ。NFTとは、Non-Fungible Token の略だ。日本語に訳せば、非代替性トークンである。
NFTは、デジタル創作物について、正当な所有者であることを証明する手段として機能する。ここで、デジタル創作物とは、画像、写真、記事、ツイート、ゲーム内アイテム、アバター、キャラクター、音楽などだ。これらのファイルをNFTにすることができる。
これまで、ブロックチェーンを用いて、ビットコインなどの仮想通貨(暗号資産)が取引されてきた。それと同じように、デジタル創作物を取引するのである。
NFTを用いたデジタル創作物の取引は、現実の世界ですでに行なわれている。デジタルアート作家ビープルことマイク・ウィンケルマン氏のNFT作品 Everydays:The First 5000 Days は、約6930万ドル(約75億3000万円)で落札された。
ツイートの文言も対象となった。ツイッターの共同創業者であるジャック・ドーシー氏の初ツイートが約290万ドル(約3億1500万円)で落札された。これは、「justsetting up my twttr 5:50.March22’2006」という文言だ。
Non-Fungibleとは
これまで、仮想通貨がブロックチェーンで取引されてきた。それとNFTはどこが違うのか? それは「代替不可能(Non-Fungible)」という点だ。これは、どういう意味か?
普通の1万円札を考えてみよう。これは、他の1万円札と交換できる。あるいは、5000円札2枚と交換できる。これを代替可能(Fungible)という。
しかし、仮に有名人がホテルで1万円札をチップとして支払ったとし、その札にサインを書き込んだとしよう。この1万円札は、高い価値があり、他の1万円札と同じものではない。つまり、「代替不可能」(Non-Fungible)だ。
デジタルアートをNFTとして取引する
NFTを作成するには、ブロックチェーン上に「Mint(鋳造)」する。これは、ブロックチェーン上のスマートコントラクトとして作成、発行することだ(スマートコントラクトについては、次節を参照)。
これによって、ある人がそのデジタルアートを所有していることを、ブロックチェーン上に記録することができる。
このデジタルアートが売れれば、そのことがブロックチェーンに記入される。ブロックチェーンに記録されたデータなので、改ざんされることはなく、データ追跡が容易にできる。
このデータに取得者として記録されている人が、当該デジタルアートの正当な所有者だ。以上は、仮想通貨の取引と同じだ。ただ対象が、Non-Fungible である点が違う。
なお、NFTはメタバースがなくても機能する。事実、メタバースの外で取引されている。逆に、メタバースは、NFTなしでも機能する。事実、機能している。
「真の所有者」という証明が価値を持つ
誰がNFTを発行し、誰が購入し、いまの所有者が誰なのかなどは、ブロックチェーンをさかのぼることで容易に知ることができる。
なお、NFTとして記録されているデジタル画像は、コピーすることができる。つまり、NFTはコピーガードの技術ではない。
ただし、デジタルアートをコピーすることができても、所有した証明にはならない。コピーされればされるほど多くの人に知られるので、NFTの価値は上がる。
結局、NFTが価値を持つのは、「真の所有者である」ということそれ自体に、価値を見出しているからだ。そして、それを見せびらかしたい、自慢したいという欲求があるからだ。
これは、ある種の虚栄心だ。その意味では、NFTの価値は強調されすぎていると言える。一種のバブルだとも言える。
アーティストにとっての「新しい所得獲得手段」が誕生した
NFTが満たすのは虚栄心だけだとしても、デジタルアーティストにとって新しい可能性が開けたことは間違いない。
これまで下請け作業だからと、低賃金で使われていたアーティストは数多くいる。それらのアーティストが、直接に収入を得ることができるようになった。そして、うまくいけば、人生を大きく変えるほどの大金を手にすることができるのだ。このことの意味は大きい。
だから、クリエイターの世界が大騒ぎになるのは、当然だ、しかし、一般の人は、もう少し冷静な目でNFTを見ることが必要だろう。
実際、NFTに対する過剰な期待は冷めつつある。2022年7〜9月のNFTの平均価格は、ピークであった1〜3月から9割近く下落した。